デジタルトーク

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2018.10.30

共通 イノベーションに至る発想

紙テープからコンピュータグラフィックスへ

 今年も文化の日に、秋の褒章が発表される予定だ。先日、褒章発表に先立ち、知名度の高い紫綬褒章の昨年の受賞者を見ていたところ、西田友是さんの名前を見つけた。

 西田友是、東京大学名誉教授。日本において、コンピュータグラフィックス(CG)を学問に仕立て上げた立役者だ。CGというとゲームや映画の映像に代表される立体的なモデリングをイメージしがちだが、日頃から目にするモニターに流れる文字列やスマホの画面に表示される多種多様な画像に至るまで、何かがコンピュータから出力され、それを人が確認する際には無くてはならない技術だ。CG界のノーベル賞と言われる、スティーブン・A・クーンズ賞を受賞するなど、その輝かしい実績を評価されてきた西田だが、真に驚くべきは、西田がCGの研究を始めた時代にはディスプレイというものが存在しなかったということだ。

 1970年代、富士通が中型汎用機FACOM230-25の対米輸出に成功、さらに当時世界をリードしていたIBMシステム/370に対抗するべく、通産省は国産電子計算機メーカー6社(日立製作所、三菱電機、東京芝浦電気、日本電気、富士通、沖電気工業)を3つのグループに再編した。まさに日の丸コンピュータの黎明期であり、計算結果はプリントして確認するのが当たり前の時代に、西田はコンピュータに絵を描かせることを思いつき、そしてそれが研究の対象たりうると考えた。突出した先見の明ではないか。

 そしてこの先見性、未来を予想する力こそが、イノベーションを起こす為には必須の要素だ。

挟み撃ちで発想する未来像

 未来を予想するためのアプローチは2つある。現時点から未来への連続的な変化を見据える “Forecasting” と、遠い未来をイメージしてからの現時点とのつながりを捉える、いわば “Backcasting” だ。そして、この2つを組み合わせ、摺り合せていくことで、未来を描いてゆくのだ。

 “Forecasting” を西田の例で言うならば、コンピュータ(電子計算機)という技術の可能性を追求し、用途がより多様化してゆくことを見越して、その表現力を高める研究に着目したということだ。当然、起点となる技術に関する深い知見が求められる。

 一方、“Backcasting”の場合に重要になるポイントは、遠い未来を既存の延長線上ではなく “場面” として捉えることだ。そのためには、時として創作とも言えるほどの想像力が必要になる。実際、いわゆるサイエンス・フィクション(SF)の中には驚くほど正確に未来を見通している作品も少なくない。

 例えば、「夏への扉」という古典的名作があり、オールタイムベストSFの投票などでは必ず上位にランクインする作品だが、この作品は1950年に、20年後の1970年を舞台として描いている。著者であるハインラインが考えた1970年の世界は、金などの希少金属を使った計算の仕組みが一般化していたり、機械の女中が家事をしていたりする。これらは実際の1970年時点では実現しなかったが、現在の主流であるシリコンと貴金属で構成されたLSI、そしてまさに脚光を浴び始めている家事ロボットそのものだ。

 西田の偉大な実績の背景の一つにはこういった、未来を見通してイノベーションの可能性を追求する “Backcasting” の姿勢があったのではないかと想像してしまう。

企業に求められる実現性

 未来を想像するのは、企業としての目線で考えたとき、未来を思い描くアプローチや想定する場面は扱う顧客(市場)や自社の方向性に応じて様々であり、どれも否定されるべき物ではない。

 デジタル時代になり、「ブレイクスルー」「非連続な進化」「クオンタムリープ」といった、顧客体験や技術の飛躍を示す言葉をよく見かけるようになった。言い方を変えれば、“Backcasting” が持て囃されている風潮にある。確かに、デジタル技術の活用によって変革が大きく加速していることは事実だ。しかし、当然ながら我々の世界はSFではなく、また想像力を書籍や映画で表現することだけでは変革の実現者となることはできない。

 忘れてはならないのは、日々のビジネス環境の中で変革を実現するためには、非連続な未来を連続的な取り組みに落とし込む必要があるということだ。つまり、“Backcasting” だけでなく、“Forecasting” も行うことが絶対に必要なのだ。

 ブレイクスルーとは、「いまから起こそう」とするものではなく、イノベーションを実現したあとに「思えば、あの時がそうであった」と振り返るものではないだろうか。そしてそのためには、目指す未来に向けて確実な取り組みを積み上げてゆく以外にはないのではないか。いまある道具を使ってできることをもう一度考えることの大切さもまた、西田先生が我々に思い出させてくれたことではないだろうか。

運営スタッフ 松本 敦

エンタメ企業を経て現職。デジタル・イノベーション・ラボ所属。
通信・ハイテク・メディア企業を中心に、経営計画の策定、サービス企画立案、実証実験の実行支援等のプロジェクトに従事。
"Digital Integration" 公開以降は本サイト運営スタッフ。お問い合せ等はお気軽に!