デジタルトーク

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2018.10.16

エンタメ ブロックチェーンは甲子園の新時代を導くか

夏の風物詩、甲子園が取り組んだデジタル化の顛末

 2018年8月に行われた第100回全国高等学校野球選手権記念大会は、周知の通り、大阪桐蔭が決勝で金足農業高校に勝利し、春夏通算8度目の全国制覇を達成。同時に史上初の2度目の春夏連覇を果たした。節目の100回大会ということもあって例年以上の盛り上がりを見せた今年の高校野球だが、白球を追う球児たちの勇姿の裏で、「高校野球のあり方そのものにも関わる大きな変化」の兆しがあったことはあまり知られていないのではないだろうか。

 最も大きな変化としては、バックネット裏の特等席が全席指定となり、販売方法もインターネット販売へと変わったことが挙げられる。目的は「ここ数年深刻化している混雑の緩和と、混雑に起因するトラブルの防止」とされている。だが、その結果を見ると、デジタル化の難しさを改めて考えさせられる。例えば、8月18日の準々決勝第一試合、大阪桐蔭vs浦和学院という優勝候補同士の対決では混雑を緩和することができなかった。総座席数47,508席に対して、指定席化したのは約5,000席だったためだ。事実、1・3塁側にある特別自由席の当日券を目当てに、前日の試合終了時から徹夜組が長蛇の列を作った。

 混雑とは別のトラブルも発生している。バックネット裏の特等席がインターネット販売となったことから、チケットの高額転売が横行したのだ。インターネットチケット販売では、需要数が供給数を上回ったとき、購入操作スピードが当選確率を左右する。操作方法を熟知した人がチケットを購入し、チケットの二次流通サービスで高額出品するため、どうしても観戦したい人は高額で購入せざるを得なくなる。当日券を購入できなかった人を狙ったダフ屋も現れ、8月21日決勝ではダフ屋行為を取り締まるパトカーが出動する事態にまでなった。

 長年、高校野球を支えてきたコアファンへの影響も懸念される。バックネット裏と言えば、従来は中央特別自由席とされており、いわゆる早い者勝ちで席が決まっていた。昔ながらのコアファンは第1試合から第4試合まで同じ席に座っていた。今年のバックネット裏はと言うと、そういったコアファンの姿が少なくなっていた。高齢者が多いこともあり、インターネットの利用方法がわからないから諦めたというファンもいると言う。

転売への対策不足が浮き彫りに

 目に見える混雑の緩和にばかり気を取られ、発生が予想される転売への対策を怠ったことの背景には、規制の不備も原因として存在している。従来は、公共の場所において転売目的で購入したチケットを販売する行為を、都道府県の迷惑防止条例で取り締まっていた。しかし、インターネットは公共の場所にあたらないため、インターネットにおける転売行為を直接取り締まることができない。法整備が追いつかない現状においては、運営側に対策が委ねられる。日本高等学校連盟では、「営利目的の入場券の転売は、固く禁止しています」の一文による警告に留まった。結果として、2,800円のチケットが二次流通サービスで10,000円を超えて出品されるケースもあり、ファンは「行きたくても行けない」「買いたくても買えない」状態となった。

 ファン行動と販売方法のギャップは容易に想像できたはずだが、結果的には将来に向けて課題を残す取り組みとなってしまった。

より問題なのは、ファン行動の理解不足

 また、前述のギャップに加え、ファンには、「好きなチームを応援したい」「注目選手を見たい」というニーズが存在する。一方で、甲子園の対戦カードは大会直前または大会中に決まる。前売りチケットを購入すると、どの対戦カードか予測できないため、そういったニーズを満たすことはできない。

 ファンは、対戦カードによって来場する時間を決めている。炎天下の甲子園を第1試合から第4試合まで観戦することは、コアファンであっても相当の覚悟がいる。前売りチケットを購入したファンは、早朝から並ぶ苦労がなくなったため、任意のタイミングで来場する。結果、チケットは完売しているのに第1試合はガラガラ、または第1試合に人気校が登場した場合は第3試合第4試合の頃にはガラガラという状態になっていた。

 新たな取り組みへのチャレンジには敬意を表したい。しかし、新旧ファンどちらにも愛される甲子園であってほしい。自身も球場に足を運んだ筆者が、これからの100年の甲子園を考えてみたい。

先行している事例から学ぶ

 チケット販売を手掛ける他業界では、転売対策にデジタルを活用している。ライブエンターテイメントでは「ももいろクローバーZ」がIC会員証、ジャニーズグループ「嵐」がデジタルチケットを導入している。テーマパークでは、ディズニーランドとユニバーサルスタジオジャパンが顔認証年間パスポートを導入している。このように、他業界に目を向けることができれば、より適した運営方法が見えてくる。

ファンのニーズを理解する

 高校野球ファンには、プロ野球ともJリーグとも違ったニーズがあるはずだ。来場する人は、関西圏内から電車で来る、遠方から長距離バスで来る、新幹線または飛行機を使うこともある。応援する高校は、母校、地元校、古豪、公立校、初出場校、負けている方を応援することもある。甲子園球場内の楽しみ方もまた、アルプスから声援を送る、ネット間際から声援を送る、甲子園カレーを食べる、かち割り氷で身体を冷やすこと等々さまざまだ。こうしたファンの行動を観察することができれば、より適した楽しみ方を提供することも可能だろう。

ブロックチェーンが転売防止と応援の可視化を実現する

 今後はより必要な人にチケットを届ける仕組みにしてはどうか。まずは応援すればするほどポイントを貯めていく仕組み。応援の仕方は、甲子園を観戦する、地区予選を観戦する、球場で観戦する、テレビで観戦する、ニュースで速報を見る、Twitterに呟く、高校野球を応援する、好きなチームを応援する、好きな選手を応援する、好きなブラスバンドを聞く、好きな校歌を聞く、等様々だ。貯まったポイントの分だけ、ニーズにあった対戦カードと座席を確保しやすくする。

 ブロックチェーンの仕組みや特徴はここでは割愛するが、ブロックチェーンの活用によって転売防止や、応援の可視化実現を期待できる。実際、スタートアップ企業LCNEMは、パブリックブロックチェーンを応用した転売防止機能を備えるチケット発行管理のサービス「Ticket Peer to Peer」を公開している。

 もちろん、実現にあたっては、ブロックチェーン技術のさらなる成熟、複数関係者の巻き込みと協力が必要になる。どれも決して平坦な道のりではないことは明白だが、毎年人のココロを熱くしてくれる高校野球において、デジタル技術の発展が次世代の応援に寄与していくことを期待したい。
 

マネージャー 小峰 弘雅

大手IT企業、専門商社を経て現職。デジタル・イノベーション・ラボ所属。
製造・金融・通信・官公庁を中心に、事業戦略の立案、新規事業の立ち上げ等のプロジェクトに従事。