デジタルトーク

この記事をシェア
2018.10.02

保険 代理店のDigital革命は実現するか

損保業界におけるデジタル化の波

 昨今のデジタル技術の活用トレンドは損害保険業界においても例外ではなく、国内各社においてデジタル戦略をこぞって計画・推進している現状が前提として存在する。

 以下は、大手各社が導入し、より高機能・高品質なものへの拡張を進めているデジタル化分野の例である。

 上記の中で、デジタルにおける主要キーワードであるマーケティングに関わる事例が無いことに違和感を覚える方もいるかも知れない。これは記載漏れではなく、日本の損害保険業界の特徴に起因している。というのも、日本の損保業界においては、商品の販売において代理店の役割が非常に大きく、国内の損害保険販売において、代理店による取扱いは保険料ベースで全体の約9割(※)を占めているのだ。

 ダイレクトチャネルであれば昨今のネット中心の消費者行動に合致し、販売強化を目的としたマーケティングの企画・実行も検討しやすいが、代理店ビジネスとなるとそれもすぐには難しい。実際、代理店を巻き込んだデジタル化はまだ事例がほとんどないのが現状である。しかも、代理店の役割は最初の契約だけでなく、アフターサービス、更改・異動等、保険ビジネスにおける顧客との重要な接点を担っているため、損保ビジネスのデジタル化において代理店との関わりは避けられないポイントなのだ。

※日本損害保険協会「募集形態別元受正味保険料割合表」参照

代理店を巻き込んだ日本独自のデジタル化の可能性

 もともと代理店ビジネスは日本の損害保険業界に特有のものであり、欧米のデジタル化事例を研究したとしても、代理店ビジネスへの活用にはさらなる創意工夫が必要である。

 顧客と同様に、代理店の業務にも様々な特性があり、AX(代理店体験:Agency Experience)を強化する施策をいかに打ち出すかが、国内の損害保険会社の生き残りに向けた重要な課題になると考えている。

 例えば、AX視点でみれば、代理店が顧客と継続的な接点を持つためのデジタルツール・機能を保険会社が開発することも有効な施策の1つと考えられるが、現状これといった新サービスのニュースを聞かない。一方で、代理店側もデジタル戦略の必要性を感じており、デジタルベンチャー等のサービス購入などを独自で検討・推進しているが、カスタマージャーニーのEnd To Endでデジタル戦略を考えられるのは、やはり商品を提供する保険会社なのである。

 例えば、保険会社がAX視点に立った時、IoTの技術を用いた損害サービスを応用して下記のような情報を個々の顧客と紐づけ、代理店に通知するサービスが検討可能であろう。
  • センサー等を用いたビル火災情報を通知
  • 車載センサーの検知事故を通知
  • 災害による地域の損害状況を通知
  • 事件や事故のニュース通知あるいは統計データを通知
 こういった通知により、代理店と顧客の継続的な接点強化によるクロスセルを可能にするといった効果が得られる。あくまでこれはデジタル化のアイデアの1つにすぎないが、保険会社が提供可能な技術や、情報の強みを生かした代理店向けサービスである。
 今後も代理店ビジネスが日本の損害保険の中心になる以上、各社がAX視点を第一に考え、代理店とのそれぞれの強みを生かしたバリューチェーンの最適化を行っていくことが大切である。どの保険会社がAX視点での先進的な取り組みを進め、先行者利益を得るか、これからもその動向から目を離せない。

エグゼクティブ・パートナー 田中 正吾

ITコンサルティングファームを経て現職。
金融業・製造業・通信業において、ITを中心とした戦略立案から実行支援まで幅広いテーマに従事。
特にITガバナンス・マネジメント、大規模システム改革の牽引を得意とする。
共著書に「日本企業の進化論」。