デジタルトーク

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2018.09.18

小売 POSレジからみる店舗決済の行く末

小売りの動向とPOSレジの変遷

2017年の夏ごろから、大手CVS(コンビニエンスストア)チェーン3社がPOSレジ(※1)を大幅刷新している。2020年東京オリンピックへ向けての多言語対応やタッチパネルの大型化などといった機能向上もあるが、その裏で「客層ボタン」という機能が、ローソン、ファミリーマートのレジから姿を消した。「客層ボタン」とは、年代(20,30,40代など)×性別(男女)の区別を店員が会計終了時にプッシュしていたボタン。顧客の属性データを収集して購買履歴を分析し、販売戦略等に活用するための機能だったのだが、昨今、Ponta、T-Point、などの電子ポイントカードと自社クレジットカードが普及したことによって、より精度の高い情報が、必要な割合で取得可能となった。それゆえのボタン廃止だったといえる。

※1:販売時点情報管理システムを搭載したレジ 

そもそもPOSレジの発祥の歴史は、1960年代に遡る。当時、アメリカのシアーズやKマートといった海外のGMSをモデルにして、ダイエーなどの大手小売り企業が日本に大量生産大量消費のプロダクトアウト時代をもたらした。それにより、一度の買い物での購買点数が飛躍的に増えたことでレジが大規模に普及し始めた。当初のレジの目的は、商品購買点数の増加による金銭授受オペレーションの負荷とミスの軽減であったが、副産物として、購買データ(どのような商品がいつどれくらい売れたか)が蓄積されるようになった。結果、レジはPOSレジと名を変えた。その購買データは、商品開発/広告販促/在庫管理/発注予測といった目的で利用されるようになったため、POSレジは、GMSなどの大手小売チェーンにとって必要不可欠の存在となったのである。それを提供するPOSレジメーカーも自社製品が大手チェーンで採用されることを目指し、高機能化と差別化を競ってきた。つまり、POSレジは昭和の大量消費時代のマーケティングを支える影の主役だったと言えるだろう。

近年では、顧客ニーズ対応機能を強化するために、POSレジ関連のシステムも改修/追加を繰り返し、購買データの蓄積に留まらず、より多くの決済以外の機能(特に販促関連機能)が盛り込まれ続けてきた。例えば、「特定の商品を買えば関連商品の割引券がレジから発行される」といった機能などもその一つである。

しかし、このようなPOSレジ自体の機能拡張はシステムの肥大化/複雑化を招いた。結果として、直近のデジタル技術進化のスピードに店舗システムがついて行けない要因の一つとなり始めた。皮肉なことに、POSレジの多機能化が店舗システムのアキレス腱になってしまったのである。

冒頭に書いたPOSレジの大幅刷新は、これらの危機感から従来の流れを捨て、よりUI/UXに振り切った機能を盛込もうとしたように見える。大げさかもしれないが、「過去との決別」を象徴する一つの表れが、客層ボタンの廃止だったと考えている。

AmazonGo方式によるディスラプション

前述のようなPOSレジの変化を踏まえ、小売店舗そのものの次なる進化は、(総務省などの後押ししもあり)RFIDなどのICタグを全商品に付与して瞬時に商品を特定してしまうスキャンレス手法の実現に向かっていた。この方式の最も大きな障壁はコストである。安価になったといはいえ、1枚数円のICタグのコストは、特にグロッサリー系の商品では看過できない障壁となる。すべての商品に搭載するコストをメーカー側で吸収せよと言うのは非現実的である。総務省のレポートには、ICタグを1枚1円以下にする前提と記載されているが、ICタグの製造企業の動向を見る限り、いますぐの実現には疑問符を付けざるを得ない。上記のような理由で、スキャンレス方式の実現は実験レベルに留まり、本格普及の道筋が見えていない状態が続いていた。

そんな停滞感がある中、突如、大きなディスラプションの兆しを投げ込んだのが、AmazonGoが採用した画像処理技術とアプリ決済を組み合わせた自動決済方式(以降AmazonGo方式と呼ぶ)である。この方式は、「そもそもPOSレジでの既存の決済行為自体をなくす」という、全く異なるアプローチをとっており、専用アプリで入店時に認証して、好きな商品をピックアップして店外に出ていくだけで決済が完了する。また、一連のプロモーション動画が公開され全世界で話題になったことで、近未来のスマート決済の姿を明確に消費者にイメージさせたことは大きい。

Amazon Go方式は普及するのか

これまでのAmazonの他事業での動きを勘案すると、このAmazonGo方式自体を全世界の他企業に先駆けて公開し、小売店舗における決済形式のデファクト化を目指すのではないかと考えられる。POSレジを駆逐した上で小売りの決済プラットフォームを握り、すでに大きなシェアを持つECと合わせて消費者の購買データ全体を掌握することが真の狙いなのではないだろうか。

しかしながら、AmazonGo方式が、既存のPOSレジを駆逐しデファクト化を達成するには下記に示す問題を解決する必要があるだろう。


【ニーズ】
POSレジ方式との最大の体験価値の違いはレジそのものを廃すことによる待ち時間の軽減だが、そもそも消費者が苦痛に感じるほどの待ち時間が今どの程度存在するのか疑問

【実現性】
購買動作を詳細に記録するカメラと取得した画像をリアルタイム解析するハイスペックなサーバ機器が必要であり、大量導入できるのか疑問

【ROI】
初期投資に加えて、規格外の消費電力を主因としたランニング費用が見込まれており、それに見合う客数と単価増が見込まれるのか疑問



上記のように、AmazonGo方式もまた、あくまで先行しているコンセプトの一つであり、普及に向けてはまだまだハードルが残存していると言える。

POSレジ+Alipayでキャッシュレス化を進めるアリババ

一方、アリババは新たなキャッシュレス・スーパー「Hema(盒馬)」の展開を進めている。2018年中に中国国内の店舗数を現在のほぼ2倍となる約60店まで拡大させる計画を発表してもいる。幅広い生鮮品の取り扱い、店内調理サービスとイートイン併設、注文後30分での配送を行うネットスーパーなど、消費者視点でのサービスは、まだコンセプトレベルの印象が強いAmazon Goよりも洗練されており、一歩先を行っている印象だ。

しかし、その店舗決済システムに目を向けると、既存POSレジの決済方式をAlipayに限定することで機能を大幅にスリムアップし、Alipayプラットフォームで不足機能を補完する形だということがわかる。「スマートフォンを持たない消費者はお客として見ない」という潔いスタンスが日本の小売業界で受け入れられるのは難しいだろうが、これにより店舗別の管理会計やレジ周りの業務は大幅に削減され、オペレーションコストが抑制されるのは事実である。

1960年代のGMS台頭からCVS全盛の時代を経て、AmazonGoやHema(盒馬)のような新たな小売り店舗が生まれつつある中で、旧来のPOSレジにRFIDを導入する政府主導の試みと、AmazonGo、Hemaを始めとした新たな決済方式の競争は、デジュールとデファクトの争いとして見ることもできる。一般的にはデジュールからの脱却が企業進化においては重要と語られるが、それがどう果たされるのか。この競争の行く末によっては、「昔はPOSレジというものがあって、そこでお金を払って商品を買ってたんだよ」と小さな子供たちへの昔話になる日も近いのかもしれない。

パートナー 山本 将之

株式会社 野村総合研究所を経て現職。
流通小売、製造業を中心に、IT戦略立案、業務改革、人材育成、PM/PMO、ITA設計などの支援に従事。
ICT活用ビジネス立上げ、案件化、プロジェクト推進まで、幅広い領域の知見と経験を有する。
共著書に「デジタル化を勝ち抜く新たなIT組織のつくり方」「デジタルトランスフォーメーションの実際」

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