デジタルトーク

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2018.07.31

共通 大企業におけるデザイン思考の問題点

大企業が感じている、デジタルのもたらす脅威

社員数1万人を超えるような、いわゆる大企業の悩み事を聞いている中で、デジタルに関連した引き合いが非常に多くなってきている。特にこの1年ほど、それを感じている。大企業は、これまで築いてきたビジネス資産(例えば全国に張り巡らせた店舗網や、長年に渡って築き上げてきたサプライチェーン)が、一瞬のうちに廃材と化してしまう危機感を持ち始めている。現行規制に守られているとはいえ、Uberに対して明確な脅威を感じているタクシー業界、AirBnBとの競争が始まっている宿泊業界、そして既にアマゾンによって駆逐されつつある書店チェーンなど、いわゆるデジタル・ディスラプターとの対決構造は、危機感の要因としてイメージしやすいだろう。だが変革を迫られるトリガーは、デジタル・ディスラプターの登場だけではなく、消費者側の行動変化の中にも存在する。

例えば自動車業界では、新車購入の検討時における見込顧客のディーラー訪問回数が、2回程度にまで減少しているため、顧客理解が低下し、従来のマーケティングが機能しないという問題に直面している。消費者は、「ディーラーに通いながら収集する」という従来のスタイルから、「ネットで調べ、購入車種を絞ってからディーラーを訪問。あとは試乗だけをして決める」という行動スタイルへ変化している。こうなれば、経営資源をよりネットへ投下していかないと、顧客離れを招くことになる。

消費者行動が大きく変化している以上、ディスラプターに対抗するための新規事業開発や、既存事業のトランスフォーメーション検討において、企業は顧客目線に立つことが重要になる。そして、そのためによく用いられるのがデザイン思考だ。

デザイン思考の5ステップ

(1) 共感
  ユーザーに寄り添い、行動を観察する

(2) 問題定義
  ユーザーのニーズや問題点を明確化する

(3) 概念化
  ニーズを満たし、問題解決となるアイデアを生み出す

(4) 試作
  プロトタイプを作成する

(5) テスト
  ユーザーに使ってもらい検証する
デザイン思考の特徴を踏まえ、大企業には2つの重要なチャレンジ機会が潜在している。

チャレンジ①:徹底的に消費者に寄り添えるか

現状、デジタルの活用度合いでは、消費者が企業に先行している。それゆえに、まずはユーザー観察から始めるアプローチが有効といえる。具体的には、インタビュー、アンケート、実地観察などによって、消費者の生の声、行動に触れ、そこから気づきを得ていく。「クロスファンクションで社内の担当者を集めた上で、消費者として想定されるペルソナになりきってカスタマージャーニーマップを作り、ペインポイントを洗い出していく」という方法を採ることもあるだろう。

ここで大切なことは、フラットに意見を述べ合うことである。消費者起点で考え、ニーズや問題点を明確化する上で、社内のヒエラルキーは本来関係ない。この原則を承知の上で議論を開始したとしても、実際にディスカッションを重ねていくと、上位職への忖度がおきたり、意見のお見合いが発生して議論が滞ったりすることがよくある。ファシリテーターが、議論を活性化するようにリードしていくことが求められる。

チャレンジ②:いかにプロトタイピングを進めるか

プロトタイピングについては、産み出そうとしているサービスのコンセプトや自社の環境によって向き、不向きがあるため注意が必要だ。

サービスコンセプトの面でいうならば、WebデザインなどのSW的要素を持つものについては、非常に相性が良く、何度も試行錯誤やリリースを繰り返しながら完成度を上げていけば良い。しかし、HW的な要素を含んでいる場合には、試行錯誤のリードタイムが長くなり、実施が困難になる。

さらに、(これが問題なのだが)大企業にありがちな環境との相性では、プロトタイピングで成果を上げるのは難しくなるだろう。具体的には、失敗を許容する文化、評価指標やプロセス、そして「縦割り組織の弊害」もまたポイントになる。製品開発のように、従前の組織・部門をまたがないような動きであれば大きなコンフリクトは起きにくいが、新規事業開発や、組織の役割見直しを伴うような、既存事業のトランスフォーメーションをプロトタイピングでやろうとすると、一気に難易度が上がる。

大企業でデザイン思考を活かすには

デザイン思考は、その方法論の性質上、「まずやってみよう」とか「考えるよりも走ろう」という大企業が苦手な言葉とセットになって語られることが多い。

消費者に寄り添って問題発見をするフェーズでは、フラットに意見を述べ合うことが肝要であるとデザイン思考は説く。忖度や意見のお見合いが発生することは、少し考えてみれば想像がつくだろう。だとしたら、ディスカッションに入る前に、フラットに意見を出せるような環境づくり(例えば、普段と環境を変えたオフサイトでの実施を検討したり、ディスカッションルールを定めたり)を検討すべきだろう。

またデザイン思考では、実際にサービスや製品を導入するフェーズまで語られていない。優れたアイデアを生み出しても、それを実現するためにどうやって社内の承認プロセスを通したら良いのか、といった点が大企業において新しいことを始めるまでの最難関になることもある。デザイン思考のゴールは新たなビジネスを産み出すことであり、アイデアを出すことは目的ではないはずだ。最終的なビジネス創出までのロードマップを想定して始めなければ、とんでもない手戻りや頓挫に見舞われかねない。

大企業は、既存ビジネスを回すための豊かな資産を持っている。しかし、デザイン思考という消費者起点の取り組みをする上では、これまでの組織やルールが弊害となることも多い。そのため、まずは自社の観察をよくした上で「考えながら走る」ことが求められるのである。

ディレクター 鈴木 邦太郎

アクセンチュア株式会社を経て現職。
通信・メディア・ハイテク、保険を中心に、新規事業立ち上げ、IT戦略立案、業務改革、社風醸成など多数のプロジェクトに従事。
共著書に「デジタルトランスフォーメーション」。