デジタルトーク

2018.08.21

銀行・証券 キャッシュレス化の推進は地銀を救うか

キャッシュレス化に向けた政府目標と現状の課題感

 ”今後 10 年間(2027年6月まで)に、キャッシュレス決済比率を倍増し、4割程度とすることを目指す”

2017年6月の“未来投資戦略2017”において、キャッシュレス決済の推進に関する具体的な目標に関して、上記内容の閣議決定がなされた。

私自身、一消費者としてECサイトを始めとしたオンラインチャネルの利用だけでなく、オフラインでもクレジットカード、電子マネー、モバイル決済等を活用し、可能な限り現金を使わずに済むように努めているが、いまだにどうしても現金が必要な場面が残っている。特に“小規模の飲食店”においては、その傾向が高く、キャッシュレス化に向けたボトルネックの一つになっているように感じられる。

キャッシュレス化に向けた課題やその対策は様々な組織において議論されているが、「具体的な施策を誰が推進していくのか?」についての言及はあまり見受けられない。消費者、販売チャネルである店舗(加盟店)、そして店舗に仕組みを提供する決済事業者という三者を、それぞれをうまくつなぎ、効果的に進めていける推進役はいないものだろうか。

消費者の裾野を広げるために

消費者の実状を見ると、クレジットカード保有率は、近年横ばいで85%、電子マネー、デビットカードはそれぞれ83%、22%で年々増加傾向にあり、キャッシュレス化に向け、消費者側の準備は次第に整ってきているようである。
 
一方で、キャッシュレス化に対しては、「浪費しそう」「お金の感覚が麻痺しそう」「お金のありがたみがなくなりそう」「現金は(障害時や災害時等)必要だから」という不安の声も聞かれ、キャッシュレス化の推進派、反対派は半々といった状況である。

こうした状況を踏まえて考えていくと、クレジットカードや電子マネーの保有率をこれ以上高めるよりも、もっと有効な手立ての可能性に目が行く。デビットカードである。銀行口座残高までしか利用できないデビットカードの活用を推進することができれば、反対派の不安を解消し、利用を拡大するための一手段として有効となるのではないだろうか。

店舗側のキャッシュレス決済の現状

店舗側の実状、すなわちキャッシュレス化の現状はどうだろう?「観光地におけるキャッシュレス決済の普及状況に関する実態調査」では、小売店/旅館業などでは、6割がクレジットカード決済に対応している。その一方で、飲食業(食堂、喫茶店など)では、3割程度にとどまっており、主な理由として導入費用・加盟店手数料の高さや「導入メリットを感じない」等の意見が挙がっている。
「キャッシュレスビジョン(2018:経産省)」の調査を見ると、比較的キャッシュレス化が進んでいると考えられる東京都内においても、カード決済可能な店舗は132,601 店のうち 47,525 店(約 3 分の 1)(2017年10月時点)だという実態がわかる。つまり、今なお多くの店舗はキャッシュレス化されていないのだ。

一方、決済サービス事業者の一つであるSquareの調査 を引用すると、

”ひと月に1回以上クレジットカードを使う成人(全体の87.1%)は、18%が事前にお店のクレジットカード対応の有無を確認し、使えない場合はクレジットカードの使える別のお店を選んだ経験があった。さらに3%の人は、カードが使えないと知らずにお店に入ったものの、その後は二度とお店に行かないか、行く回数が減ると回答・・・”

カード決済ができない店舗では、大きな機会損失が発生していることを示唆している。

では、日本全国にある店舗のキャッシュレス化を推進するためには何が必要なのだろうか? 従来のマス的なプロモーションだけで急速に加盟店が増加することは考えにくい。今後は、個々の店舗に対して「導入メリット」や「導入費用低減の支援策」を提案できる「伝道師」の存在がますます必要になると考えられる。

決済サービス事業者の取り組み

様々な課題を抱える店舗側の現状とは裏腹に、店舗に支払い手段を提供する事業者側の準備は整いつつある。既存のクレジットカード事業者に加え、デビットカード、電子マネー、QRコード決済等の決済手段に対応しながら、いくつもの決済サービス事業者が新規参入を果たしている。これによって加盟店拡大に向けたハード面の環境が整備され、価格(導入費用,決済手数料)の低廉化も進んでいる。(図表:当社調べ)
これら決済サービス事業者では、加盟店をどれだけ拡大できるかが収益化のポイントとなるわけだが、効率的に加盟店を増やすべく、現状では大手事業者との提携が中心となっているようである。今後は、大手事業者が捉えきれていない小規模店舗に、個別にいち早くリーチする手段を持つことが、加盟店拡大競争を生き抜く上で必要になってくると考えられる。

地方銀行の活躍に期待

まとめると、キャッシュレス比率の向上に向けたポイントは2点挙げられる。
  • 消費者の不安を解消した上で、利用者の裾野を広げるためには、デビットカードの提供は、一つの有効な手段と考えられる
  • 加盟店網を拡大し、店舗のキャッシュレス化を推進するために、「低価格な事業者」と「導入メリット」を個別にアプローチする手段が必要

そこで注目したいのは、地方銀行の存在と強みである。地方銀行は、地場の小規模店舗や消費者の口座を多く保有しており、それぞれとの距離も近い。キャッシュレス比率向上の推進役という役割を果たせるのではないだろうか。

施策案として例えば、支払いサービス事業者とのアライアンスにより、決済サービス導入の代理店として地域の小規模店舗にアプローチを行う、という形が想定できる。地域の産業を支えてきた地銀のアドバイスという形を取ることで、大手都市銀行よりも有力な代理店となりうるだろう。また、自行のキャッシュカードをデビット化し提供することによって、デビットカードの保有率拡大にも貢献できる。

地方銀行側にもメリットはある。地銀は、超低金利の長期化と資金需要の伸び悩みに直面し、地域における金融インフラの中で果たす役割の変化が求められている。その中で、消費者の預金利用を促進し、収益化に貢献しうるデビットカード拡大は有力な打ち手になるだろう。そして、キャッシュレス化の推進に向けて他の事業者と協力することは、デビットカードの保有と利用を同時に推進する施策となるのだ。もちろん、キャッシュレス化そのものの効果として現金取扱業務コスト、ATM維持コストなどの削減も期待できる。

すでにいくつかの銀行で提携やデビットカードの取扱がはじまっているが(※)、キャッシュレス比率拡大目標の達成に向け、地方銀行のさらなる頑張りに期待したい。
※Coinyと佐賀西信用金庫による決済サービスの導入支援
※Origami Payと青森銀行との口座連携
※トッパン・フォームズとTFペイメントサービスと琉球銀行との提携
http://cashless.work/debitcard-bank/#5 (地方銀行でデビットカードが発行できる銀行)

エグゼクティブ・パートナー 内田 秀一

独立系ITコンサルティングファームを経て現職。
金融、流通小売業を中心に、IT戦略立案、業務改革、ITガバナンス強化、大規模プロジェクトマネジメント等のプロジェクトに従事。

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