デジタルトーク

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2017.11.20

共通 思考の本質から考えるデジタル革命のインパクト

週末に、デカルトの『方法序説』を手に取った。今から400年前に書かれた古典で、有名な一節「我思う、故に我あり」が書かれている名著だ。デカルトが、理性に立脚した近代合理主義の扉を開き、それが200年後の産業革命につながっていく、という教科書的な話は知っていた。ただ、恥ずかしながら、その中身についてはあまり知らなかった。実際に本を読んでみて私が驚いたのは、400年前に打ち出された考え方が、今もってなお有効であるということだ。

 " 明瞭かつ判明なものしか判断材料としない(ファクトベース)"
 " ものごとを解決するために、必要な限りの要素に分割する(要素分解)"

 " 何ひとつ取り落とさないよう全般的に枚挙する(MECE思考)"

これらは、今でも全ての若手コンサルタントが叩き込まれる思考の本質である。昔と今とで、取り扱う問題は違えど、思考の枠組みとしては400年前からこれほど変わらないものかと、目が洗われる思いがした。

200年前に起きたパラダイムシフト、産業革命。私たちの社会・経済システムもその延長線上にあるとして、思考の本質もまた長い間変わっていないのだ。

少し前に、Googleのアルファ碁が世界チャンピオンを打ち負かしたことが大きな話題になった。将棋の世界でも、AIと棋士が戦う電脳戦が催されているが、もはやAIの優勢は揺るがない。今春に電脳戦を戦った佐藤名人が、次のように述べている。

 " (AIは、)人間よりも将棋の神様に近いところにいる。すごい存在と一瞬すれ違ったのが電脳戦だった。"(佐藤名人)

 "(AIよりも、)ずっと長くやってきたとしても、人間は、全体の中のひとかけら、一部分の局面しか見てこなかった。"(羽生二冠)

 ― NHKスペシャル「人工知能 天使か悪魔か 2017」2017/6/25放送

将棋の世界では、AIが何百万というこれまでの棋譜を読み、自己学習を重ねる中で、将棋の歴史の中で人間が経験したことのない未知の戦法にたどり着いた。例えば、「矢倉」と呼ばれる戦法は、「矢倉を制するものが棋界を制する」と言われ、本格派は必ず指していたものだったが、最近はめっきり見なくなってしまった。AIの生み出した新手を「矢倉」ではどうしても打ち破れないのだ。佐藤名人としては、将棋という小宇宙の詳細を解き明かした神のような存在と戦っているように感じられるのだろう。

近いうちにやってくる第4次産業革命(デジタル革命)。400年前の蒸気機関の発明に端を発した第1次産業革命のキーワードを機械化とするのであれば、その後、大量生産、自動化と、革新を進めてきて、IoTとAIによる第4次は機械の自律思考化による革新になるだろう。

機械が初めて思考するようになる。
 
そして、その思考の本質は、デカルト以来400年間、私たちの社会の繁栄の礎となってきたものとは全く異なる。IoTによって集められたビッグデータを、AIは、多変量解析(相関分析)にかけて最適解を見出していく。私たちは問題解決するにあたり、MECEに要素分解して原因を突き止めた上で打ち手を考える。なぜその打ち手なのか説明できる。一方、AIが示す打ち手に理由はない。あるのは相関だけだ。いかに多くのデータを集められるか、それが「思考」を深めるポイントになる。

デカルトが方法序説で説いた、理性的で科学的なアプローチが礎となり、産業革命によって世の中は大きく革新した。IoTとAIの新しいアプローチが何を生み出していくのか、まだ全容は誰にもわからない。羽生二冠が言うように、現在の私たちには第4次産業革命が実現させる世界全体のひとかけら、一部分の局面しか見えていないのであろう。

新しい「革命」の夜明けはもう目の前だ。通信インフラは5Gへの移行を間もなく迎え、多くのモノ・コトを計測するIoTによりビッグデータが至るところで生成されるようになる。本質的に思考アプローチが異なるAIが生み出す世界がどのようなものになるのか、デジタル革命を迎えるにあたり、そのインパクトは私たちの想像を超えたところにあるという謙虚さを持って臨むことが必要ではないだろうか。

パートナー 鈴木 邦太郎

アクセンチュア株式会社を経て現職。
通信・メディア・ハイテク、保険を中心に、新規事業立ち上げ、IT戦略立案、業務改革、社風醸成など多数のプロジェクトに従事。
共著書に「デジタルトランスフォーメーション」。

登録タグ:人事