デジタルトーク

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2018.05.22

農・水産 職人技にこそ、デジタルトランスフォーメーションを

増殖するエックス・テックサービス

Fintech、という言葉が使われだしたのは2015年頃である。それから3年余りが経過した昨今では、様々なサービスが「○○テック」、と銘打って企画・提供されている。保険ビジネスにおけるInsurtech(Insurance×Tech )、医療やヘルスケア領域のHealthtech(Health×Tech)などは比較的、メディアに取り上げられ、ビジネスパーソンの間では浸透しているのではないだろうか。さらに、Foodtech(ex.自動調理器、3D調理プリンターなど)や、Babytech(ex.赤ちゃんの見守りセンサー、赤ちゃんの健康管理アプリなど)まで登場している。

新しいテクノロジーを利用したサービスが普及すれば、B2B領域では業務が効率的になり、B2C領域では消費者の生活の品質が向上し、もっと便利になる。例えば、Fintechの登場により、少額の投資をロボアドで行うことができるサービスや、少額の融資を簡単に受けられるようなサービスを使えるようになった。あるいは、Healthtechでいえば、スマートウォッチでバイタルデータを測定し、日々の健康管理に役立てられる。領域は様々あれど、○○テックサービスに共通することのひとつに、これまで取れなかったデータが取得・分析できるようになり、そのデータそのもの、もしくは分析結果を生かしたサービスをスマートフォンに代表されるデジタルデバイスを通じて利用できる、ということがあげられる。

注目されるAgritech

この、データの取得と分析の応用が、最近ではこれまでテクノロジーとは縁遠かった領域でも使われ始めている。例えば、農業にIoTとデータ分析を利用するAgritech(Agriculture×tech)がある。

農業は、これまで長年の経験によって培われた肌感覚や暗黙知に基づく技術に頼ることが多かった。その年の天候や土の状態などにより、肥料の量や与えるタイミングなどを変える必要があるからだが、そこで決め手となる知恵やノウハウは、経験を豊富に持たない層には共有しづらい面があった。しかし、IoTやドローンなどを活用すれば、集められるデータ量は長年農作物を育ててきた人が蓄積してきたものにも勝る。それらのデータを過去のデータと突き合わせて分析すれば、どんなタイミングで何をすればいいのかが可視化でき、誰にでもわかるようになる。

少子高齢化問題と共に、労働生産人口の減少が危惧されているが、その中でも農業に従事する人の数は減少のスピードは速い。5年おきに政府が実施している調査によると、2015年は20年前と比較して約半分、5年前と比較しても20%減少しているのだ。時間をかけて職人を育てる時間は残されていない。それよりも、デジタル化を促進して生産量を維持することが喫緊の課題となるのではないだろうか。

実際、圃場(田畑・農園etc.)の気温や湿度、日射量、CO2濃度、土壌水分などの環境をスマートフォンでモニタリングできるシステム「みどりクラウド」や農家の定量的なノウハウを可視化する目的で開発された農業センサーシステム「SenSprout」など、新しいサービスが実際に提供され、使われ始めている。政府もAgritechを推進しており、今後の普及が期待される。

職人技にこそデジタルトランスフォーメーションを

ところで、「職人技」をデータ化することは、農業だけでなく、職人の減少に苦しむ業界の光明になる。有名な例を挙げれば、日本酒の「獺祭」である。従来、日本酒を製造する場合、熟練の杜氏(とうじ)が指揮をとる。獺祭の酒造元である旭酒造は、経営難により杜氏が退社してしまった、という危機に瀕した際に、酒造りの全行程で徹底的にデータを取り、杜氏に頼らない酒造りの最適解を見つけることに成功。結果として、事業規模の大幅な拡大を達成した。
 
テクノロジーが効率化できる領域は単純な業務だけではない。新たなテクノロジーを使えば、職人の経験や勘を数値化することもできるようになってきた。しかし、伝統的な産業においては、「長年の経験と勘がなければできない」という思い込みが強いように思う。匠でなければできないものも、当然あるであろうし、まだまだ人でなければ対応できない作業もあるとは思う。しかし、長年培った経験と勘を持つ人たちがリタイアし、技術が失われていくさまを指をくわえて眺めているくらいならば、思い込みを捨て「職人技デジタル化」の可否を検証してみるべきだ。労働生産人口が減少する中で、職人に頼らずに製品の品質を維持し、生産し続ける仕組みを作ることは、今後ますます重要になるに違いない。

マネージャー 鈴木 典子

外資系コンサル、ヘルスケア系事業会社を経て現職。
デジタル・イノベーション・ラボ所属。
現在は金融・ヘルスケア業界のリサーチ、提案支援に従事。