デジタルトーク

2018.04.24

銀行・証券 日本は決済に関して本当に遅れているのか?

世界のトレンドに取り残される日本の決済

最近、決済手段の変化のトレンドとして、中国や北欧におけるキャッシュレス化の発展と、それらの国々と比較した日本のキャッシュレス化の遅れがメディアで取り上げられることが多い。実際に紙幣と貨幣の市場における流通高をGDP比で比較してみると、流通高に占める通貨流通高の割合が最も低いスウェーデンの4%に対して、日本は約20%である。他の先進諸国を見ても、高くて10%程度である事が明らかになっており、このデータだけ見ると確かに、日本のキャッシュレス化は突出して遅れているように見える。
しかし、日常生活を振り返ってみると、現金の存在感は明らかに薄れているようにも感じる。例えば、財布を家に忘れたことに、帰るまで気づかなかった、という経験はないだろうか。家を出て、Suicaで電車に乗る。コンビニでお昼を買うときは、そのコンビニが発行しているプリペイドカードで支払いを済ませ、タクシー移動では、タクシーアプリで支払う。ビジネスシーンにおいても、例えば遠方に出張するときは、事前にネットで決済し、搭乗口でスマートフォンにダウンロードしたQRコードをかざせばOKだ。

以上のように、日本のキャッシュレス化は、少なくともビジネスパーソンの間では、かなり進んでいるのではないか、という印象がある。では、「キャッシュレス化がなかなか進まない」、という話題がニュースで取り上げられるのはなぜなのか?

訪日外国人が感じている”不便なニッポン”

キャッシュレスの話題と並行してとりあげられることが多いのは、訪日外国人の増加である。2016年の訪日外国人の国籍割合をみると、中国27%、韓国21%、台湾17%、香港8%とこれら4つの国で70%以上を占める。中でも旅行消費額で4割を占める中国の本土では、キャッシュレス化の進み方が著しい。アリペイ、WeChatPayに代表されるスマホアプリでほとんどの決済が完結する社会へと、ここ数年で劇的に変化した。アリペイ、WeChatPayのようなQRコードを用いたスマホ決済の仕組みに関しては、日本でもごく一部のフィンテック企業が取り入ていたが、メガバンク3行やNTTドコモなどが今年に入ってようやくQRコード決済に参入することを発表したところである。

一例として飲食店に注目してみると、世界共通で使えるVISA、Masterなどのクレジットカードを使える店が、全体の2割程度しかない。中国人旅行者にとってみれば、「普段使っているQRコードばかりか、クレジットカードさえも使えないのか」という印象につながるだろう。これでは、せっかくのビジネス機会を飲食店側が自ら逃しているようなものである。

金融機関を巻き込んだ浸透に向けた課題

銀行業界の視点で見ると、業績が伸び悩む中、コンビニATMの運用費の負担が増加している。昨年10月に三井住友銀行が、今年3月から三菱東京UFJ銀行が、それぞれATMの無料使用回数を制限した。さらに地銀でも同様の動きや、無料だったATM手数料を有料化する銀行が増えている。現金を使わない決済が増えれば、ATMの台数を減らすことができ、さらには預金引き出しや振り込みのための窓口担当者も減らすことができる。人手不足の対応やコスト圧縮を実現したい銀行にとって、キャッシュレス化で得られるメリットは大きい。

VISAが外部に委託した調査では、東京都で企業間取引や政府による支払いも含めた「キャッシュレスレベル」が今より2割高まれば、現金を数えたり運んだりするコストを約5.4兆円減らせる計算になるという。インフラ整備の費用を差し引いても、都だけで約2.2兆円の経済効果が見込まれるという。政府がキャッシュレス化を推進するのも、こうした事情があるからであろう。

Suicaは、2002年のサービス開始から15年間で約6,400万枚発行されている。単純計算で言えば、二人に一人は持っていることになる。「日本はもともと現金主義だからキャッシュレス化が進まないのだ」という説もよく聞かれるが、まさにキャッシュレスを実現するツールであるSuicaが浸透している現実を踏まえれば、こうした通説にさして説得力がないことは明らかだ。

キャッシュレス化に対応することは、訪日外国人にとっての決済を便利にしたり、金融業界の業務効率化の観点でも高い効果が見込まれるなど、調べてみると利点が多い。しかし、一般消費者の意識改革が前述のビジネスパーソン以外にも広がらない限り、キャッシュレス化の推進は企業の「押し付け」で終わってしまうだろう。一般消費者は、格別な不便を感じない限り、今までの行動を変えづらい。キャッシュレス化を進めるには、消費者に向き合う各企業が、今より便利な体験価値を実現し、その価値を訴求することが必要なのではないだろうか。

マネージャー 鈴木 典子

外資系コンサル、ヘルスケア系事業会社を経て現職。
デジタル・イノベーション・ラボ所属。
現在は金融・ヘルスケア業界のリサーチ、提案支援に従事。

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