デジタルトーク

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2018.03.27

銀行・証券 コンサルタントが振り返る「コインチェック事件」

改めて振り返るコインチェック事件

2018年1月26日未明、仮想通貨取引所大手のコインチェックが保有していた、仮想通貨の一つであるNEM(ネム)の不正流出が起きる。同日11時25分にコインチェックがネム残高の異常を検知し、12時38分に売買を停止した。同日夕方にはすべての取り扱い通貨の出金を停止。ビットコイン以外の通貨の売買も停止した。
流出額は日本円換算で580億円。2014年のマウントゴックス事件の約470億円を上回り、仮想通貨市場最も高額な流出となる。

世間を騒がせた、いわゆる「コインチェック事件」は、いまだに完全に解決したとは言い難いものの、連日の報道を見る限りでは沈静化してきている様に見受けられる。
では、今回の事件から我々は何を学ぶべきなのか。コンサルタントの視点から、今回の事件が投げかけた課題を考察する。

デジタルビジネスが抱える4つの課題

今回の事件は、デジタルを活用した新しいビジネスモデルや、それを取り扱うスタートアップ企業が抱える課題を浮き彫りにした。

①スタートアップ経営者の倫理観
急激な成長の裏側には必ず落とし穴がある。スタートアップ企業が生き残るためには、成長し続けることが必要だ。新しい事業モデルを考えても、他社が同様のサービスを開始すると一巻の終わりになる可能性がある。このために、顧客基盤の拡大や品揃えを増やすことが、企業存続の生死の分かれ目になる。

すなわち、どうしても攻めが先行して、守りが後手に回る。今回は、守りの要であるセキュリティ対策への投資が後手に回った。攻めと守りをバランスよく整備する倫理観を持たないと永続しない。

②深刻な技術者不足
セキュリティ分野における技術者が圧倒的に不足している。

「投資家に返す資金があるのならば、最初からセキュリティ対策ができたのではないか」との声が上がる。適切な対策を打たなかったのは、セキュリティに詳しい社員がいないのではないかと考えられる。

ただ、これは同社に限ったことではなく、どの企業でも同じことが言える。実際、セキュリティの主担当が海外人材であることも多い。セキュリティ人材の育成・確保は、日本企業にとっての大きな課題となっている。

③先端技術との距離感
今回の事件では、技術的な仕組みが明快に説明されていないし、モヤモヤした状況だ。

マルチシグ、コールドウォレット、公開鍵といった言葉は踊るが、それを理解できる人は少数に過ぎない。

ブロックチェーンについての解説は増えてきた。だが、すべての仕組みがブロックチェーン上で稼働しているわけではない。ブロックチェーン上での追跡はできても、その外へ出ると、不正行為は追跡できないのだ。いったい、どこまでが追跡でき、どこまでが追跡できないのかがわからない。

これまで、技術など意識しなくてもサービスを使っていればよかった。「まさかこんなことは起きないだろう」と誰もが高をくくっていたのだ。だが、監督官庁が関知していないサービスを利用するにあたって、自分自身を守るために、ある程度の技術を理解することが求められる。

④希薄な自分自身を守る意識
結局のところ、自分の資産は自分自身が守るしかない。

「自分自身でコールドウォレットを持て」と呼びかける声はあるものの、銀行や証券会社の口座に対して、コールドウォレットなど作ることはしない。「銀行や証券をはじめとする金融機関は、セキュリティが守られているもの」と考えがちだ。だが、インターネットにつながっている以上、いつでも、どこからでもサイバー攻撃を受けることを意識すべきだ。今回はコインチェックが狙われたが、自分自身の口座が直接狙われるリスクもゼロとは言えない。

監督官庁の関与度や、サービス提供者の信頼性について、自身が確認しておかなければならない。

仮想通貨市場の発展に向けて

事件直後、仮想通貨市場は暴落したが、すぐに勢いを取り戻してきている。様々な報道や憶測があっても、仮想通貨に魅力を感じる投資家が多いということだ。

一般的に、新しいビジネスが立ち上がる局面では様々な問題が起きる。そのたびに原因の追究と問題解決がなされ、より成熟した市場へと成長する。今後、当局の関与が高まるものと考えられる。仮想通貨はボーダレスであり、国をまたいだ規制も進むだろう。

通貨の価値は「支払手段」「価値の尺度」「価値の貯蔵手段」だ。今は値動きが激しく「価値の尺度」の意義を果たしていない。また、決済システムが整備されておらず「支払手段」としての意義も果たしていない。

だが、ボーダレスで使えるデジタル通貨は必要とされる。そのために、以下の発展に期待したい。
 
  • 通貨格付け
    流通しない通貨は、投機商品となるため、どの程度安全なのか、といった格付けの発達
     
  • 流通・決済システムの整備
    通貨を流通させるために必要なシステムの整備
     
  • サイバー・セキュリティシステムの進歩
    サイバー空間で発生する犯罪の予防に加え、犯罪が起こった後の追跡機能の向上

構造的課題の解決にも期待

加えて、教育システムの進化にも期待したい。デジタル技術が進むなか、企業経営の倫理観、金融知識、投資知識、先端技術への理解など、個人の生活を守るための教育システムの発展が重要である。これだけ様々な技術が進むなか、教育システムが今のままで良いわけがない。

セキュリティなど、先端技術者の育成にも力を入れたい。いつのころから、ITは3K(「きつい」「帰れない」「給料が安い」)と言われて敬遠される業種になった。だが、それによって海外の大手IT企業から大きく遅れを取ることになった。日本のIT業界の発展にも期待したい。

取締役 小塚 裕史

野村総合研究所で資産運用サービス事業の立上げから拡大に従事。ブーズ・アンド・カンパニー、マッキンゼーにて金融、製造、サービスなど幅広い業界で、企業の事業戦略、業務改革、IT戦略の立案から実行推進までを支援。2012年に入社、2016年取締役。
事業戦略、IT戦略をはじめ、デジタルをテーマとしたコンサルティングサービスを主導。主な著書に「デジタル・トランスフォーメーション」、「デジタルトランスフォーメーションの実際」(共著/日経BP社)他。