デジタルトーク

この記事をシェア
2018.04.17

銀行・証券 ハードフォークは「魔法の杖」か?(後編)

ハードフォークは、「棚ぼた」現象ではない

前回の繰り返しになるが、ビットコイン保持者は結果的に、8月のハードフォークによって同量のビットコインキャッシュ(BCH)を得ることに成功した。何故かと言うと、取引所が軒並みビットコインキャッシュ(BCH)を付与する対応を行ったからである。

この対応について、保持者は「ただでもらえてラッキー」と思ったかもしれないが、だとすれば大きな勘違いである。決して善意ある取引所が、あなたのためにビットコインキャッシュ(BCH)を提供してくれた訳ではない。ブロックチェーンの仕組み上、分裂した時点で、あなたは自動的に同量のビットコインキャッシュ(BCH)を保持していたのだ。

ブロックチェーンには、これまでの履歴を全て消えることなく確実に保持しているという特徴がある。つまり分裂して出来たビットコインキャッシュは、それまでビットコインが脈々と保持してきた履歴を、そっくりそのまま持って誕生したのだ。その中にはもちろん、あなたのアドレスに紐づくデータも存在している。それは誰かに搾取されるものではない、れっきとしたあなた自身のビットコインキャッシュ(BCH)だ。

保持者がラッキーだと思えた理由は、分裂しても元のビットコインが下落しなかったからだ。もしハードフォークによってビットコインが信頼を失い、価値を大きく下げていたら、否定的な評価を得ていた筈だ。

幸い下落しなかったのは、ビットコインが世の中である程度認められていたことが大きい。今は自国の通貨が不安で、仮想通貨に流れる動きが盛んなため、ビットコインの信頼が揺らぐことが無かった。つまりタイミングが良いのだ。

しかし今後のハードフォークは、逆の結果となる可能性もあり得る。ビットコインキャッシュの時のように、資産が増えるとは限らない。資産が減るリスクも十分あることを念頭に置いておくべきだ。

取引所に依存するハードフォークの対応

ビットコインキャッシュのように、分裂しても必ず同量を手に入れられるとは限らない。ブロックチェーンの仕組み上、分裂したどのコインにも確実にあなたのデータは確実に存在する。しかし、それを手にできるかどうかは取引所の方針に委ねられるからだ。現に10月に分裂したビットコインゴールドは、まだ日本の取引所が様子見の状況にあり、保持者のアカウントには付与されていない。取引所としては、新たなコインが信頼できると判断できるまでは付与する訳にはいかない。新たなコインに欠陥があれば、お客様が資産を損なう恐れもあるため、しかるべき判断と言える。

しかし保持者にとってみると、どうにも腑に落ちない。あなたのアドレスに紐づくデータは存在しているのに、付与されないとなると、資産は一体誰に搾取されるのかと思ってしまうだろう。その答えはおそらく「誰のものにもならずに泡と消えてしまう」ということになる。行き場を失った「野良コイン」に陥ってしまうのかと思うと、保持者は納得できる筈もない。

ビットコインゴールドの場合はまだ良い。分裂した後もビットコインの価値に影響が無かったので、損したとは思わない。しかし仮に、分裂が原因でビットコインの価値が半分になってしまったら、保持者は新たなコインも配布されないと割に合わないと思うだろう。

取引所としては、新たな通貨が信頼できないのであれば、売買サービスを行うわけにはいかない。保持者としては、信頼できないものであっても付与はしてもらわないと納得できない。双方にとって納得できる対応を取る事が、取引所には求められていくだろう。

決済手段としての今後の課題

今は圧倒的な資産価値を誇るビットコインであるが、このパワーバランスが未来永劫続くわけではない。現在は投機目的と言われても仕方のない状況である。それでも市場が盛り上がっているから良い。しかし近い将来、決済手段としての役割を果たしていかねば、仮想通貨全体の未来が危ういため、喫緊の是正が必要となる。“使える決済手段”として確立するためには、以下の課題を乗り越えねばならないだろう。
 
  1. 値動きが激し過ぎる
    現在のビットコインは、たった1日で数十万円の値動きも起こり得るため、価値がある程度安定しないと決済で使うにはリスクがあり過ぎる。
     
  2. 手数料が高過ぎる
    ビットコインの手数料は固定ではないが、高い手数料を払うほどスピーディに送金ができる。およそ0.001BTCを払うと安定的に送れると言われており、この額を設定しているサービスが多い。ビットコインの価値が低かった頃はこの設定額も安かったのだが、今では約2,000円にまで高騰している。
     
  3. 税金がかかる
    仮想通貨で利益を得ると税金がかかる。しかも、入出金の全ての履歴を自分で計算したうえで確定申告をしなければならない。円との売買を行った場合にかかるだけではない。ビットコインで決済を行った場合でも税金の対象となるため、全てのお買い物の履歴をたどらなければならない。これは決済手段としての利便性を損なう致命的な欠陥と言える。

課題を解決するのがビットコイン自体なのか。それともハードフォークで立ち上がった新たなアルトコインなのか。その答えが出るのは、きっと遠くない未来であろう。仮に新たなアルトコインがビットコインに取って代わるのであれば、ビットコインの価値は急激に降下するかもしれない。投機目的でビットコインを保持している方は、くれぐれも2018年から注視しておいた方が良い。

パートナー 八木 典裕

大手IT企業を経て現職。デジタル・イノベーション・ラボ所属。
金融・製造・通信を中心に、IT戦略立案、ITコスト最適化、全社システム刷新など多数のプロジェクトに従事。
共著書に「デジタルトランスフォーメーション」、「デジタル化を勝ち抜く新たなIT組織のつくり方」など。