デジタルトーク

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2018.04.10

銀行・証券 ハードフォークは「魔法の杖」か?(前編)

立て続けに起こるハードフォークに歓喜する保持者

2016年7月に起こった“The DAO騒動”(※)を発端にしたイーサリアムとイーサリアムクラシックの分裂。更には2017年8月にコアデベロッパーとマイナーの対立で起こったビットコインとビットコインキャッシュの分裂など、仮想通貨のハードフォークが相次ぎ、各種メディアの紙面を沸かせた。分裂前は仮想通貨の存続を危ぶむ声が多く、保持者は不安を口にしていたものだが、幸いどの通貨も健在という状況にある。

※イーサリアムのスマートコントラクト機能を活用した“The DAO”にバグがあり、そこを突いた犯人が他人の資産(約3.6百万ETH)をハッキングする事件が発生した。ただDAOの機能で、奪われた資産を27日間は取り出せない仕様があり、その間で犯人の奪った資産を取り戻す方法が議論された。その結果、ハッキングが行われる以前のデータに戻す強硬処置(ハードフォーク)が実施されたのだが、これはブロックチェーンの非中央集権的というメリットを損なう対応とも言えるものであった。そのため快く思わない人々によって、イーサリアムクラシックが分裂して誕生した。

それどころかハードフォークは、結果的に保持者の資産を増やす結果をもたらしている。例えばビットコインキャッシュが誕生した8月1日時点でビットコインを保持していた人は、同じ数量のビットコインキャッシュを手に入れることに成功した。

仮に1ビットコイン(BTC)を保持していた人であれば、ハードフォーク後は1ビットコインキャッシュ(BCH)も保持することとなったのである。日本円に換算してみると、分裂後間もない8月3日の時点で1ビットコインキャッシュ(BCH)は5万円以上の価値を記録している。分裂前のビットコインの価値が約30万円超であったため、保持者の資産は15%程度増えた計算になる。
ただ保持していただけなのに、ハードフォークのおかげでコインの数量が2倍になり、資産価値が15%も増えた……この事実が保持者の感覚を麻痺させていった。恩恵に授かった保持者の大半が、次に来るハードフォークを好意的に迎えるのは当然の成り行きであろう。

しかも、世の中ではあまり認知されていないかもしれないが、ビットコインのハードフォークはまだまだ続く予定だ。
ハードフォークに好意的となったビットコイン保持者は、一通りの分裂が終わるまで売らずに保持しようとする動きになる。ビットコインは値動きが激しく、まだまだ決済で使うにはリスクが高いため、ただでさえ投機目的に過ぎないと言われることが多い。そこに拍車をかけるように、ハードフォークが通貨の流通を鈍化させる。これは仮想通貨が決済手段としての価値を発揮できない由々しき事態と言えるだろう。

保持者にとっては“棚ぼた”のように思えるハードフォーク現象。これは一体何なのか? 果たして仮想通貨に明るい未来をもたらすものなのだろうか? その内容について、考えてみた。

ハードフォークとソフトフォーク、その違いから理解する

フォークとは“分裂”を意味する言葉である。食事で使うフォークのように、先が複数に分かれている様をイメージすれば良い。つまり1つの仮想通貨が2つに分裂するということなのだが、フォークにはソフトフォークとハードフォークの2種類があり、その内容も目的も大きく異なる。

まずソフトフォークは、主に新たな機能の追加や、アルゴリズムの問題を改善することが目的となるため、いわゆる“バージョンアップ”と捉えると理解しやすい。それまでの通貨をより良くすることが目的であり、一旦は分裂するのだが互換性を保ったまま新しい方に移管することになる。

一方ハードフォークは、それまでの通貨から分裂した全く新しい通貨を誕生させるものであり、互換性の無いアップデートと言える。“新たな別製品の誕生”だと捉えてほしい。
最近メディアを賑わせているのは、冒頭でも触れた通りハードフォークの方である。ビットコインキャッシュのように、通貨が分裂することによる“新たな別製品の誕生”に話題性があるからだ。

イーサリアムやビットコインで起こっているハードフォークは、仕組みの問題や懸念点の改善を試みたことに端を発する。アルゴリズムの修正を検討するなかで、開発方針の違いや立場的な思想の違いから対立が生じ、分裂に至ってしまった。袂を分かつ必要が無ければ、ソフトフォークという選択肢もあったかもしれないのに、非常にリスクのある対応になってしまったのである。

結果として、保持者に対して巨大なメリットを与えてしまった。ビットコインキャッシュと分裂したにも関わらず、ビットコインは留まることなく暴騰し、一時期は200万円を超えるほどの勢いを見せた。ビットコインキャッシュも無事に立ち上がり、アルトコイン(※)で最も勢いのある通貨にまで登りつめた。分裂しても蹴落とし合うことなく、どちらの通貨も成功しているわけだ。それゆえに、最近では「これに続け」と言わんばかりに、ハードフォークを利益先行で取り組む風潮すら感じる。(後編に続く)

※アルトコインはAlternative Coinの略であり、代替のコインという意味を指す。ビットコイン以外の全ての仮想通貨の総称として使われる用語である。

パートナー 八木 典裕

大手IT企業を経て現職。デジタル・イノベーション・ラボ所属。
金融・製造・通信を中心に、IT戦略立案、ITコスト最適化、全社システム刷新など多数のプロジェクトに従事。
直近ではデジタルを活用した新規ビジネス創造などに携わっており、社内ブロックチェーン研究会やAI研究会の リーダーとして事例調査や技術研究を推進中。
共著書に「デジタルトランスフォーメーション」、「デジタル化を勝ち抜く新たなIT組織のつくり方」など。