デジタルトーク

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2018.03.13

運輸 日本は「従来タクシー」のままでいいのか(後編)

山積みの課題を解決するために誕生したUber

 なぜアメリカではUberが頻繁に使われるようになり、中国でも同じ現象が起こったのだろうか?そして、日本はこれからも「タクシー王政」が継続するのであろうか?なぜ各国でシロタクもどきのサービスが普及したのだろうか?数々の素朴な疑問に対する答えは明快だ。各国のサービスにはDisruptされうるだけの不足が溢れていおり、それが起爆剤となったからである。
 
 アメリカでタクシーに乗ったことのある人ならば、きっとそのサービスの悪さも経験したはずだ。まず、接客態度の横柄なドライバーが後を絶たない。空港から乗るタクシーはまだマシなのだが、それ以外のシチュエーションでは快適なエクスピリエンスは望めない。常に遠回りの可能性を懸念し、不安と闘いながら乗車することにもなる。また、ニューヨークやロスやサンフランシスコといったメジャーな都市では、ドライバーの多くが移民であるため、英語によるコミュニケーションもままならない。さらに加えて、路上でタクシーを捕まえることが難しく、その傾向は年々酷くなっている印象だ。
 
 以上のように、山積する不安や不快の数々。それを払拭したのが、UberやLyftといったサービスだった。アプリを使い、タクシーより安価で、車をどこにでも呼び出せる。行先は事前に入力でき、決済もクレジットカードであり、GPSで地図をみなくても目的地へ到達できる。もちろん遠回りなんて決してない。最後にドライバーのレーティングがあるからだ。後に乗車するお客側のレーティングをも導入することで、非常に公平なプラットフォームが誕生した。
 
 簡単にいってしまうと、小学生レベルの問題が提示され、突き詰めた案がUberだった訳だ。

アメリカよりもさらに悲惨な中国のタクシー事情

 中国ではどうだろう? 私は以前、6年間上海に住んでいた。中国には中国ならではのタクシー事情が存在する。雨が降った日と帰宅時間のピーク(午後5〜7時)が重なった時などは、悲惨なタクシー争奪戦が展開される。例えば2010年のある日(まだアプリ上でタクシーが呼べなかった時代)、ドイツ人の上司とミーティング後にタクシーを掴まえようとした時のことだ。タクシースタンドの手前を中国人がスゥっと横入り(前入り)して、前へ前へと列が移動する始末。頭にきた上司は我慢できなくなり、横入りした中国人の襟を掴んで乗車を阻止し、我々がそのタクシーに乗り込んだのである。他にも、奇想天外なエピソードは絶えない。深夜近い時間にタクシーに乗って赤信号で停止した際、別ドアから中国人が乗り込んできて、「降りろ、おれが先に乗っていた」などと罵られたこともある。まさに、「食うか食われるかごとく取るか取られるか」の戦国時代だった。
 
 そして、この戦国時代の救世主となったのがアプリだ。実は、アメリカよりもいち早くアプリを導入したのが中国の民間企業たちだった。タクシーアプリの市場競争の激しさによって、ユーザーには「紅包」と呼ばれる値引き券がばらまかれるようにもなった。こうして、中国ではタクシーを道路で掴まえる習慣から、アプリを使って呼ぶ習慣へと、一気に様変わりしたのである。
 
 余談だが、中国のタクシードライバーのほとんどは受け答えの習慣を持っていない。場所を伝えてもウンともスンとも言わない。あまり口を開かないのだ。「なんだ、この最悪な態度は?」と思う人もいるかもしれないが、こういった運転手はしっかりとした教育を受けていないということをあとになって知った。

世界から置いていかれる日本のタクシー

 話を元に戻そう。以上のように、「起爆剤」となる存在の登場がアメリカや中国における変化を促してきた。日本の場合だとその「起爆剤」が足りない気もするが、それはひょっとすると日本人のタクシーに対する考え方や期待に関係があるのかも知れない。たとえば、日本の都市は電車や別の交通手段の便が良い。さらに、タクシーが「高価でラグジュアリーな乗りもの」又は「仕事時や残業時に使用するもの」と意識づけられていることもあり、ほかの国のような「少し高いが必要な交通手段」として位置づけられてはいない。
 
 しかしながら、各国の状況には関係なく、世界の波は押し寄せてくる。うかうかはしていられないのが昨今のデジタルの風潮である。日本交通の川鍋社長はスピンアウトとした形でタクシー業界を守ろうと「全国タクシー」というアプリを猛スピードで作りあげた。黒船到来に危惧した一手だと言えるだろう。その使い心地も悪くはない。電子決済もできるし、行き方も特定可能、金額を大体把握できる。
 
 ただ、いくら日本のタクシーのサービスが良くても、世界に比べてみれば「置いてきぼり感」は日に日に増してくる。地方ではやはりタクシーは(駅以外)探しにくいし、価格も先進国では一、二番を争う高さだ。最近ではこの料金設定の課題に対して、「相乗り」というサービスを打ち出していることが話題になった。日本の比較的統一された文化組織、倫理性と安全性があるからこそ提供できるサービスだと思う。また余談だが、初乗り410円に金額改訂されたが、これはむしろ中長距離価格の高騰へ向かう、という見方が実証されている。
 
 日本が後手に回る時代から脱却するためにも進んで新しいことにチャレンジしてほしい。本当に必要となる起爆剤は存在しないのであろうか。今後も注視してゆきたい。

エグゼクティブ・パートナー 服部 周作

戦略系コンサルティング会社、スタートアップ企業を経て現職。
ハイテク、自動車、通信、製造の各業界において、事業戦略の立案、新規事業の立ち上げ等のプロジェクトに従事。グローバルにおけるガバナンス強化、人材育成などの海外案件を得意とする。
著書に『47原則-世界で一番仕事ができる人達はどこで差をつけているのか』、共著『デジタルトランスフォーメーションの実際』。