デジタルトーク

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2017.11.28

共通 デジタル時代の業務要件定義

低下する要件定義力


 システム開発の超上流工程である業務要件定義。この工程の不備を起因とする障害に悩む企業は少なくない。ある企業では、年間数百件規模でこうした障害が発生している。その原因は様々だが、共通の問題点としてフォーカスすべきなのが、業務要件定義担当者やレビューアのナレッジおよびスキル面での「力不足」だ。これが業務要件定義の不備を引き起こす一因となっていることは否めない。

担当者からは以下のような声が聞こえてくる。

「現行の業務やシステムについて知見がない」
「業務のあるべき姿を描くための拠り所がない」
「要件を整理し伝えるチカラが弱い」

など理由は様々だ。さらには、こんな意見も。

「何となく要件や解決策らしきものが上長や業務の現場から伝わってくる中、全体像が見えていないまま、自分なりの解釈で業務要件をまとめている。要求や現状業務、利用システムを分析するための時間を十分に割けていないし、業務要件についてしっくりきていないものの、あとはシステム部門がなんとかしてくれる」

……こんな風に考えている担当者までいるのだ。これでは十分に要件を整理できない。認識の齟齬に気付かないまま工程が進み、カットオーバー後に業務要件の考慮漏れが発覚し、障害が発生することにもなりかねない。

要員強化が必要。しかし、それには時間がかかる

 このような状況を打破する打ち手とは何か? 標準化やルール強化といったスキームの再構築や、業務要件定義を担当する人材の育成・強化の必要性がいま高まっている。しかし、人材の育成・強化については、効果発現までに時間を要するうえ、人材の異動などによりせっかく積み上げた知見・スキルが流出してしまい、思うような成果を上げられないという課題に直面している企業も少なくない。

 現実的に要件定義のできる人材を育成するのには時間がかかる。要件定義作業が毎年・毎月のように発生する以上、中長期に及ぶ要件定義力強化策だけでは状況悪化のスピードについていけない。

人工知能(AI)の適用という新たな可能性

 では、この業務要件定義工程にAIを適用できないだろうか。AIは、人が対応するよりもはるかに早くかつ緻密に分析することができる。AI の導入が上手くいけば、業務要件定義担当者の経験不足やスキルに対する杞憂から解放される。これによって、ヒトはこれまで業務分析や業務要件定義に割いていた時間をさらに上流の戦略立案や構想立案に充てられるようになる。

 業務要件定義を実施するためには、戦略にもとづく業務構想やシステム構想など「あるべき姿」の情報を捉えることが必要だ。だがそのためには、現状の業務や自部門だけでなく他部門との依存関係など、分析する対象は幅広く、そして深い。業務要件の考慮漏れや認識相違を排除し、高品質な業務要件定義を実践するためには、現行業務やシステムなど内部環境の分析や外部環境が及ぼす影響を十分に分析していかなければならない。

 さらに、AIによる業務要件分析実施には、「いかに有効なアルゴリズムを構築するか」が鍵となってくる。戦略や業務構想といった“あるべき姿”や、現行業務に係る情報、過去の業務要件定義に係る情報といった“大量データ”も必要だ。大量データのインプットがあってこそ、業務要件分析やその定義というタスクにおいてAIはそのチカラを発揮できる。

 荒唐無稽な話だと感じるかもしれない。しかし、今の業務を熟知している要員が高齢化し、後継人材の育成が困難であるのだとしたら、十分検討に値するのではないだろうか。これから先、障害の数が大きく減少するということは考えにくい。AIを導入しないのだとしても、自社のナレッジマネジメントのあり方を再考する価値は大いにある。

パートナー 髙橋 輝充

デロイトトーマツコンサルティング、KPMGメンバーファームの立ち上げなどを経験し現職。
金融業界を中心にM&A(PMI)支援、事業戦略立案、人材育成の企画・実行、IT中期経営計画策定、ITガバナンス強化など多数のコンサルティングサービスを提供。
共著書に「デジタル化を勝ち抜く新たなIT組織のつくり方」。