デジタルトーク

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2018.01.30

保険 ボッタクリとの遭遇を機に考えた、保険ビジネスの将来(後編)

リスクの変容① 転嫁から回避へ

InsureTech Connect 2017では、「Active Shield」という考え方が、保険業界の今後のデジタルトレンドとして紹介されていた (※1)。保険会社がこれまで保障してきたのは、病気や生死、火災被害などのリスクであり、予測できない未来の不確実性に対して、顧客は掛け金を事前に支払って、万が一のケースに備えてきた。顧客にとって、保険会社はリスクの「転嫁」先であり、保険会社は顧客からの請求を受けて保険金を支払う受け身の存在だった。

デジタル化が進むと、顧客や保険会社は健康状態をより詳細に把握できるようになるだろう。テクノロジーの進歩が、新しい市場を生み出すことになる。例えば、米国のスタートアップ企業Oscar Insuranceは、契約者にフィットネスモニターを無料配布し、フィットネス状況に応じて報奨金(最大$20/月)を提供している。健康増進サービスを謳い、ビジネスの力点を、リスクの「転嫁」だけでなく、疾病のリスク「回避」にまで広げようとしているのだ。請求を受けてから保険金を支払うだけの存在から、より積極的(Active)に、顧客をリスクから守る(Shield)ような存在へ、保険業界は顧客への関与を高めていこうとしている。
※1:OLIVER WYMAN『ITC17_Oliver_Wyman_Keynote』P15

リスクの変容② 所在の変化

InsureTech Connect2017で議論された自動車保険の例も紹介しよう。自動運転機能の進化や完全自動運転車の登場が早晩見込まれる中、自動車事故が減り、自動車保険の存在意義を疑う声もある。それに対して、AIGのRob Schimek (Executive Vice President and CEO, Commercial)は、以下のように話していた。

完全自動運転の登場で、リスクが消失するわけではない。
過去を振り返ってみても、シートベルトやエアバックへの信頼性が高まるに連れ、
リスクは変化してきた。リスクのランドスケープの変化を見極めることが大切だ。


実際、「自動車事故の責任を誰が負うべきか」という問いに対する人々の考えは、前提とする自動運転のレベルによって大きく異なっており、自動運転機能の進化と共にリスクのランドスケープが変化してゆくことが予想される。
Schimek氏の議論は非常に冷静だ。リスクの所在がどこに移るのか、俯瞰的に見極めようとしている。
イラスト:InsureTech Connect2017 『The Shifting Landscape of Risk』講演資料より、ベイカレント作成

デジタルでリスクが変容し、ビジネスが変化する

保険業界は、顧客のリスクに向き合ってビジネスをしてきた。一家の働き手に万が一のトラブルあったときに、残された家族の経済的な保障と心の安寧を約束する死亡保障から始まり、物損や疾病、最近では生き続けることに対する保障などにも範囲を広げているし、リスクの細分化も進んできた。

ただ、俯瞰的に見れば「リスク保有者からリスクを転嫁される」というビジネスモデルに大きな変化はなかった。それが、デジタル化によってで変わろうとしているのだ。変化のマグニチュードは大きい。

既存の枠の中で、商品やサービスに磨きをかけるだけでなく、リスクの性質変化に合わせてどうビジネスモデルを変えていくのか? 保険業界は今、ビジネスの根底に関わる部分で、大きな課題を突きつけられているのだ。保険ばかりではないだろう。数々のレガシーな業界においても、デジタル変革は確実に進んでいる。

 

パートナー 鈴木 邦太郎

アクセンチュア株式会社を経て現職。
通信・メディア・ハイテク、保険を中心に、新規事業立ち上げ、IT戦略立案、業務改革、社風醸成など多数のプロジェクトに従事。
共著書に『デジタルトランスフォーメーション』。