デジタルトーク

2018.02.06

ヘルスケア 便利になるまで「あと一息」診療のオンライン化

実質的な「制限解除」が呼び込んだ、遠隔診療の普及

「遠隔診療」という言葉をご存じだろうか。スマートフォンやパソコンのビデオチャット機能を使い、インターネットを介して医師が診療を行っていくオンライン診療のことを言う。この遠隔診療、存在自体は通信技術が発達してきた20年ほど前からあった。しかし、医師法には「診察は基本的に対面で行うべし」という考え方がある。そのため、厚生労働省はこれまでに何度か「遠隔診療通知」と言われる通知を発表し、遠隔診療を行うことができる範囲を制限してきた。具体的には離島やへき地など、対象地域が制限される上、国が指定した(重症度の高い)9つの疾患にしか認められてこなかったのだ。

ところが、2015年8月、厚生労働省は「これまで提示してきた対象地域、疾患はあくまでも例であって、制限ではない」という新たな通知を出した。つまり、「離島やへき地でなくても、また、指定された9つの疾患でなくても、遠隔診療をしてもよい」と解釈できるようになったのである。この通知を受けて、2015年の秋以降、MEDLEYやMRTなどを筆頭に、遠隔診療を行うためのシステムを提供する事業者が次々と登場。医師自らが遠隔診療のシステムを作り遠隔診療サービスを提供したクリニックもある。
 

一見、利便性は高そうだが、いまだに残る数々の問題点

遠隔診療を実行する際の基本的な流れは、以下のようなプロセスをたどる。
 ①アプリをインストール
 ②アプリで診察の予約
 ③ビデオ診察
 ④カード決済
 ⑤処方箋の送付 or 薬の配送
上記のプロセスを見ればわかるように、例えば、毎年同じ時期に同じ薬を飲めばいい花粉症の患者などにとっては非常に魅力的である。オンラインで手軽に受診し、なおかつ薬を家まで届けてもらえるのだから。

だが、一般的に普及するには、まだまだボトルネックがある。まず、遠隔診療だけで治療を完結することが認められていないのだ。そのため、必ず1度は外来を訪れ、対面での診療を受ける必要がある。また、遠隔診療の仕組みを導入している医療施設の数も、少しずつ増えているとはいえ、まだまだ少ない。全国に約18万もある医療施設の内、多く見積もってもせいぜい1000施設程度に過ぎない、というのが現状だ。つまり、遠隔診療を受けたいと思ったら、その仕組みを導入しているクリニックを探し出し、近くになければ、遠くのクリニックまで出向かなければならないという事態になる。受診の手間を軽減するための遠隔医療だというのに、わざわざ遠出をしなければいけない。これでは本末転倒だ。

医師サイドの目線で見た場合にも問題点が存在する。既存の診療報酬制度の上では、遠隔診療をすることにメリットがない。「対面で診察した方が儲かる制度」になっているからだ。また、「どんな疾患だと安全にオンライン診察できるか」を研究し、明確な方向性を示すような成果がまだ十分に揃っていない、という実情もある。そのため、「遠隔医療では安全な診療ができない」と考える医師も多いのだという。

首相の発言が新たな追い風に。見えてきた光明

以上のように、急速な進展が期待されたにもかかわらず、次々と問題点が顕在化していた遠隔診療だが、大きな前進を呼び込むきっかけが登場した。2017年4月に開催された未来投資会議における安倍首相の発言である。この会議で首相は「対面診療とオンラインでの遠隔診療を組み合わせた新しい医療を、次の診療報酬改定でしっかり評価する」と発言。医師側のボトルネックの1つが2018年の診療報酬改定でクリアされる可能性が出てきた。

加えて、遠隔診療に前向きな医師たちによって、ポジティブな研究結果も発表され始めている。例えば、「特定の精神疾患や禁煙、花粉症の場合は、遠隔診療を行う方が対面診療のみの場合よりも効果的」といった内容である。

制度上の問題解決と研究成果の前進。これにより、障壁となっていたものが少しずつ取り払われようとしている今、遠隔診療の普及は、「あともう一歩のところまで来ている」のではないだろうか。

マネージャー 鈴木 典子

外資系コンサル、ヘルスケア系事業会社を経て現職。
デジタル・イノベーション・ラボ所属。
現在は金融・ヘルスケア業界のリサーチ、提案支援に従事。

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