デジタルトーク

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2017.12.18

エンタメ カスタマーエクスペリエンスの最先端を走るゲーム業界

新たな体験価値に挑戦し続ける任天堂

 任天堂の株価が好調だ。2016年7月の「ポケモンGo」のリリース後に起きた、老若男女を巻き込んだ一連のフィーバーは記憶に新しい。それ以降もNintendo Switchが品不足になるほど人気となり、10月発売の最新作「スーパーマリオ・オデッセイ」は発売後3日で200万本の販売を記録した。据え置き型ゲーム機向けの作品としては数年ぶりのスマッシュヒットになるだろう。

 スーパーマリオシリーズは誰もが知るように、任天堂を代表するフラッグシップタイトルであり、マリオはキャラクターとしても世界的に認知されている。リオオリンピックの閉会式を思い出した方もいるだろう。その上で、任天堂にとってのマリオシリーズは、数々の実験的で野心的な取り組みの舞台でもある。初代のスーパマリオブラザーズでは、左から右に向かって流れるステージの中で「ジャンプする」というアクションに様々な意味を持たせていた(ブロックを叩く、敵を踏みつける、穴を飛び越える……etc.)。当時としては画期的で斬新なユーザーインターフェイス(UI)であり、「とにかくジャンプしているだけでも楽しいアクションゲーム」という顧客体験(CX)を提供していたのだ。

 今回のスーパマリオ・オデッセイでは、従来のジャンプアクションとしての要素を押さえつつ、新たにマリオのトレードマークでもある帽子を使ったパズル要素の強いアクションを導入してCXを進化させている。新しい作品が出るたびに、従来のシステムの延長線上にはない、新たな体験が用意されている。基本を押さえて、ユーザーの期待値に正しく答える「さすが」のCXである王道のジャンプアクションと、ユーザーが思いもしなかった「まさか」のCXである帽子をつかった謎解きアクションの両方を兼ね備えているからこそのビッグタイトルなのだ。
初代「スーパマリオブラザーズ」(1985年)と「スーパマリオギャラクシー」(2017年)のプレイ画面
出展:任天堂ホームページ

驚きを提供するための「ニーズ」「シーズ」「エゴイズム」

 任天堂に限らず、ゲームメーカーはゲーマーの夢を様々な形で実現してきた。夢を驚きに変えることで、「まさか」と思わせるようなCXを提供してきた。
「自分が実際にコクピットに入った様な画面で遊びたい!」(ダライアス)
「切れ目なく、360度見渡せるフィールドでキャラを動かしたい!」(三國無双)
「もっと自由に動かせるコントローラーで操作したい!」(任天堂 Wii)
「自分の作ったステージを友達とシェアしたい!」(スーパーマリオメーカー)
「自宅で世界中のプレイヤーと対戦ゲームがしたい!」(ストリートファイターⅣ)

 ゲームは基本的に、現実にはない仮想の世界観の中でCXを提供するコンテンツだ。自由に世界観を変えられるため、ユーザーの期待するCXの幅も広い。その中で驚きを提供するためには、従来のユーザー体験の分析や発掘では不十分だ。ユーザーの「ニーズ」、先端技術の活用という「シーズ」、そしてゲーム全体を貫く、一貫したCXを定義するために最も重要な、創り手の主張である「エゴイズム」のバランスが重要だ。

 ニーズでは、従来通りのアプローチで、ユーザーの求めている価値やユーザー自身も気付いていないニーズ(アンメットニーズ)を紐解いてゆく。ゲームの場合は価値の消費が早く、ユーザーの考えも変化しやすい。迅速なキャッチアップが必要だ。

 シーズでは、新たなテクノロジーや技法によって実現できるようになったことを、CXに落とし込めないかを考える。モーションキャプチャーに関連する一連の技術を始め、ゲーム業界によって実用化された技術は数多く存在する。単純なハードウェアの性能で見ても、プレイステーションを始めとした据え置きゲーム機の性能は最先端だ。しかも同程度の計算リソースとして比較すると、市販されているコンピュータよりも驚くほど安価だ。実際、耐震設計の計算に、プレイステーションをクラスタ結合して利用している企業まである。シリコンバレーとは違う文脈で、最先端の技術の実用化が起きているのがゲーム業界なのだ。

 エゴイズムの重要性は、つまるところ「ディレクター(ないしはそれに類する責任者)が楽しいと思うものを作るしかない」というところにある。どれだけCXを考えても、様々な人の意見を聞いても、全てを受け入れる事が不可能なのは当たり前だ。そもそも万人が満足する作品など存在しない。「あっちを立てればこっちが立たず」で、着地点の見えない議論を終わらせるのは、強い信念を持ったディレクターの「鶴の一声≒エゴ」以外にはない。ゲームに限らず映画や漫画の世界でも、最近は最低限のマーケティングが求められている。しかしながら、本質的には天才が考えていることを形にするためのクリエイター集団であったはずだ。ユーザー自身が気付いていない価値を見出して実現することは、できるのであれば素晴らしい事かもしれないが、少なくともクリエイティブの現場からは遠い世界の話と言えるだろう。

 世界三大ゲームショウと言われている、TGS・E3・Gamescomは全て夏期に開催されている。「次の夏が来るまで、冬の間はこたつでゲーム」が、正しいゲーマーのあり方だろう。

運営スタッフ 松本 敦

エンタメ企業を経て現職。デジタル・イノベーション・ラボ所属。
通信・ハイテク・メディア企業を中心に、経営計画の策定、サービス企画立案、実証実験の実行支援等のプロジェクトに従事。
"Digital Integration" 公開以降は本サイト運営スタッフ。お問い合せ等はお気軽に!