ベイカレントの考えるデジタル変革のゴールデジタルトランスフォーメーション(DX)での落とし穴を避けるために

 デジタルテクノロジーを活用した実証実験(PoC:Proof of Concept)をうまく進めている企業では、効果の見える事例が積み上がり、自社内でのデジタル活用意識の醸成が進んでいる。

 ただ、その次の既存のビジネスモデルの再構築でつまずいてしまうケースが多い。ビジネスモデルの再構築の中でも、「ビジネスアイデアの創出」「アイデアの実証」「アイデアのビジネスモデルへの落とし込み」までは進むものの、「ビジネスモデルの実現」の段階で急速に勢いがなくなってしまう。しかも、マネジメント層のデジタルビジネスへの理解不足という理由よりも、現場での自主規制により、失速してしまうことが多い。

 現場での自主規制は、ビジネスモデルの差別化への悲観的な見方、社内の協力体制への疑念、目の前の業務への逃避、という形で表に出てくる。ビジネスモデルとしての練り込みの不足、リソースの不足から、「新たなデジタルビジネスが多くの顧客を引き寄せる」という自信を持てないのだ。その裏には、いままでの新規事業の立ち上げで期待されてきた、「すぐに売上を出していくビジネスモデル」を求める風潮が存在する。

 本来は、小さなビジネスモデルを束ねて、大きなビジネスのカタマリにしていくことを追求すべき。ただ、そこまでを現場の担当者に求めるのは酷だ。経営者がニッチなビジネスを統合して大きくしていく道筋を示さなくてはならない。
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2017.11.20

トレンド・背景

 DXのコンセプトがマスメディアで取り上げられる機会も増えて、企業として本格的に取り組むところも増えてきている。デジタル推進組織の設立やCDO(Chief Digital Officer)を設置する企業も増えており、DX自体は一般的な言葉になっている。DXの取り組みとして、2017年8月の時点で、上場企業の時価総額の上位100社の中で、57社がデジタル組織を導入しており、CDOは6人も誕生している。2017年は、日本においてDXが特別な先進企業だけでなく、一般の企業にも浸透した「DX元年」とも呼べるだろう。成功事例を求めるには時期尚早かも知れないが、DXに向けた取り組みを始めたものの、早くも落とし穴に陥り始めている企業も出てきているように見える。

 DXのステップとしては、社内でのデジタル活用意識の醸成までは進んでいる企業が多い。デジタル組織が中心となって、新たなテクノロジーを自社で活用できるかを確認する実証実験(PoC)を次々に進めている。実証実験の結果を、数値に落とした具体的な成果として社内外に示していき、社内に対しては、研修の一環や、社内セミナーという形で知見を展開している企業もある。目の前に、業務時間を90%削減とか、業務リスクを80%の精度で予測という事例を並べられると、「うちの部署でもやってみたい」となる。世の中の事例には懐疑的でも、隣の部署が成果を出しているとなると、気になるらしい。

何をすればよいのか

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成功の鍵

 DXでは、ビジネスモデルの再構築の中で、顧客に対する提供価値をカスタマーエクスペリエンス(CX)の観点から変革していく。ある意味では、既存のビジネスモデルをセルフディスラプトしていく覚悟が求められる。よほどの事情がない限り、今のビジネスモデルを一気に180度変える取組みを選択するのは簡単ではない。リスクが大きく、ステークホルダーに対する丁寧な説明も必要となる。

 既存のビジネスが、差し迫った危機にあるわけではなく、現れるかどうかも知れないディスラプターに備えるだけでは、大きな一歩を踏み出しにくいだろう。ビジネスアイデアの段階であれ、ビジネスモデルに落とし込まれた後であれ、現場では社内の空気を敏感に感じ取って自主規制を設けてしまう。しかしその自主規制が、イノベーティブなデジタルビジネスを生み出し、成長させる機会を妨げてしまう。

 仮にアイデアがあったとしても、推進する担当者自身が、「必ず成功する」モデルに囚われてしまい、自分のアイデアの欠点ばかりが目についてしまう。さらに周囲は、過去の事業経験の範囲を超えるデジタルのアイデアを理解できないので、どうしても否定的な態度を示してしまう。担当者は、元々アイデアに自信がある訳でもなく、周囲からのサポートを得られないので、そのうちアイデアを捨ててしまう。

 ビジネスモデルに落とし込みまで至っても、既存のビジネスモデルとの干渉の懸念から、あくまで補完的な立場に置かれてしまう。例えば、長い間、自社のECサイトは、リアル店舗でカバーできない遠隔地の顧客へのチャネルでしかなかった。そのため、店舗で購入する方が、顧客の利便性が高くなるように、購入できる商品が限られたり、発送までの時間がかかったり、高額な送料を設定していた。リアル店舗という既存のチャネルとのコンフリクトを避けるという目的で、ビジネスモデルの自由度を制限していた。このような状況を見ていると、現場では、既存のビジネスとの干渉がないように、補完性があるように、と斬新なビジネスモデルではなく、小さくまとまったビジネスモデルを目指すようになる。

 以上のように様々な社内の雰囲気が現場の自主規制を誘引し、既存ビジネスを破壊しかねない社内のセルフディスラプターを殺してしまう。現場だけを責める訳にはいかない。カルチャーや価値観、発想法といったものは、日々の仕事を通じて身体に染みついてしまったものなので、経営トップが掛け声を口にしたくらいでは刷新されない。外部のディスラプターからの強烈なプレッシャーを受けるか、社員の目の前で成功事例を示さない限り、デジタルビジネスが既存のビジネスを押しのけて出てくるイメージは広がっていかない。個別のデジタルビジネスを一つずつ立ち上げていても、そう簡単に状況は打破できない。いくつ立ち上げでも、デジタルビジネスは大きくならないし、儲からないという目で見られてしまう。経営トップが、デジタルビジネスのビジョンを示し、強いリーダーシップの下で、個別のデジタルビジネスを束ねていくことが求められる。デジタルビジネスを統合し、既存ビジネスが無視できないほどの存在として、デジタルビジネスを一つの本流にしてしまうくらいのアピールが必要だ。