イネーブラとしての先進技術次世代ネットワークの真価

5G(第5世代移動通信システム)の正体が明らかになってきている。

常に進化を続けてきた移動体通信において、今回の変革は何を意味するのか。そして、それは具体的にはどのような価値として社会に還元され、日本企業はそこで何を考えるべきなのか。

進化したネットワークを含めた新たなICTインフラが支えるのは従来の工場IoTだけではない。われわれ生活者にとっても、あらゆるタッチポイントから得られた情報がCXとして還元される「インタラクティブなサービス」を実現する基盤となるものだ。

IoE社会に向けて、その嚆矢となる5Gを改めて考える。

 
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2019.11.27

遂に正体を現わしはじめた次世代ネットワーク

5G(第5世代移動通信システム)がついに現実味を帯びた形で我々の目にも入るようになってきた。携帯キャリア大手3社によるテレビCMも始まっており、地域を限定した実証実験も次々に実施されている。

投資シーンでの注目度合いも見逃せない。三井住友トラスト・アセットマネジメントが募集するファンド「THE 5G」は2019年10月時点で純資産が約4,000億円にも登り、単一のテクノロジーに絞った投資信託では最大、全体でも16位なのだ。では、何ゆえにそこまで期待されているのか。

「THE 5G」の募集サイトは以下の魅力的な説明書きで始まっている。

“AI、IoTなどすべての情報技術分野の可能性の根源は5G”

そもそも、従来のネットワークに求められてきた普遍的な価値といえば「早い・安い・切れない」の三点セットであるが、昨今の複雑化しているネットワーク事情においては「ただ繋がっていれば良い」わけではない。

IoE(Internet of Everything)社会に向けて激増するデバイスとトラフィックを捌いてゆくために、総務省は5Gに対して「超高速・超低遅延・多数同時接続」を要求しており、次世代サービス基盤の中でも根源的な価値を提供するICTインフラとしての役割が求められているのだ。

5Gを支える技術

5Gの仕組みを理解するためには、コンピュータ通信の仕組みを理解しておく必要がある。現在の移動体通信の通信経路を考えると、大きく「端末(デバイス)・無線区間・有線区間」に分けることができ、これらのプロセス内で動作する仕組みとして物理層からアプリケーション層までを7つに分けたOSI参照モデルに分けて考えることが一般的だ。
「超高速」の実現に向けた重要なポイントが高周波数帯域の活用であり、重要になるのは物理層からネットワーク層まで、「超低遅延」「多数同時接続」を実現するのがデバイス・基地局におけるプロトコルの刷新であり、より上位の階層を含めた検討が必要だ。

なぜ周波数が重要なのか?
無線、有線と言っても情報を伝えているのは結局は電磁波である。電磁波とは波長と振幅で定義される波動のことであり、我々が視覚情報として感知している、いわゆる可視光線はおおよそ400-800THz(テラヘルツ)までの範囲を指すが、移動体通信において用いられるのはより波長の長いGhz(ギガヘルツ)帯であり、これらもキャリア等によってその利用帯域が細かく分割されている。
電磁波の特徴として、振動数(周波数)とエネルギーの間には以下の関係性がある。

E = hν (hはプランク定数)

エネルギーと振動数が比例関係にあるということはすなわち、高い周波数を遠くに届かせるためにはより高い出力が必要になるということである。

一方で、通信の基本はこの電磁波の波形にデジタル信号をのせて(実際には変調と復調が行われるわけだが)情報伝達することである。すなわち、周波数が高ければ高いほど、同じ時間で多くの情報を伝えることができるということである。電磁波の伝播速度は光速であり、これ以上に早いものはない。電磁波の伝わる速度以外のパラメータで通信速度を高くすることが必要だ。すなわち、通信技術とは「より周波数の高い電磁波を遠くに届ける能力」「電磁波にデータを効率的に載せる能力」を追い求めるものなのだ。

「より周波数の高い電磁波を遠くに届ける能力」の恩恵が顕著なのが、広域Ethernetに代表される有線通信である。光ファイバーは極めて低い減衰率で電磁波を伝えることを可能にし、結果として数百THzクラスの電磁波が伝達されている。

これが無線通信になると、電磁波は空気中(および遮蔽物)を越えて伝達する必要があるため、周波数を高くするほど遠くに到達させることが困難になる。超高速通信を実現するためには、単純に周波数を高くすれば良いということではなく、無線の伝送距離が短くなるのに対応して基地局の数を増やす必要があるのである。

現時点で実証実験が多く行われているのは、LTE-Advancedと呼ばれる6GHz帯を活用したものであるが、研究レベルでは100GHz帯までを視野に入れた検証が行われている。

規格策定の現状
高い周波数帯が実現できても、基地局やデバイス側で情報を処理しきれなければ高速通信は実現できない。必然的にエッジコンピューティングを始めとした処理能力の非連続な飛躍は必須ではあるが、単純に研究室レベルの環境をそのまま構築すればよいという訳ではない。新たな通信インフラとして提供するためには技術開発と並行した標準化が必須である。すなわち、規格(=プロトコル)を検討する上で、広範囲にインフラとして提供可能なHW要件も同時に検討するということだ。

標準化にあたっては3GPPが各国の標準化団体を取りまとめる形で、主要各社が採用した実証実験の進捗や従来の規格との後方互換性を勘案した形で仕様の検討・策定を進めている。現在は各社が自社仕様の採用に向け、フィジビリティや実績のアピールに邁進している状況であるが、2019年12月のRelease 16をもって大枠の要求が確定する見通しであり、2020年度には具体的なインフラ敷設に向けた取り組みが始まると見られている。

具体的に表出する価値

それでは、実際に5Gが一般的に普及した状況では具体的にどのようなCX(体験価値)が考えられるだろうか。前述の「超高速・超低遅延・多数同時接続」5Gの価値を考える観点は「即座に設置可能なインフラ」かつ、「移動体に対応可能」なことである。

B2B領域では、一般的にIoTでイメージされるような工場IoTでは真価を発揮しづらいだろう。設置型のIoT機器では現状、LPWAN(Low Power Wide Area Network)を始めとした、超低消費電力に重きをおいた規格の採用が進んでおり、よほど大容量データの送受信が必要なユースケースでない限り5Gを利用する必然性が存在しない。B2Bにおける5G活用シーンの出発点はやはりモビリティになるだろう。

自動運転の実現に向けた大きな障壁と言われているポイントに、交通法規に現れない交通マナーの地域差問題がある。クルマがどこにでも走ってゆける以上、”コネクテッド”に要求されるレベルはまさに5Gの真価を発揮するにふさわしい。

B2Cにおいては、現状のコンテンツとネットワークのパワーバランスを逆転させる可能性に期待したい。2Gから始まったモバイル通信の歴史はそのまま、モバイルで体験できるコンテンツの進化の歴史でもある。

2000年にiモードが始まり、「ケータイでインターネットをする」ことが当たり前の時代になった時、より快適なネット体験を求めて3G回線の需要が高まった。さらに4Gの普及はスマホでのVOD鑑賞を当たり前にした。ネットワークの進化が新たなユーザー体験の地平を切り拓いてきた訳だが、現在では回線での差別化が困難なため「VOD観放題・SNS使い放題」といった形でコンテンツを訴求する回線売りに傾いている。

5G提供前夜では、VRやウェアラブルを中心として現状よりさらにコンテンツの革新が進み、ネットワークがCXのボトルネックになっているだろう。その時こそ、ネットワークの復権がなされるに違いない。

ビジネスに対する活かし方

では、数年後の5Gを見据えて企業としてはどのように取り組むべきだろうか。

おそらく、ほとんどの企業にとって5Gは緊急性の高い変化ではない。前述した基地局供給の問題を始め、インフラとして普及するまでにかかる時間も不透明なうえ、CXに大きな影響を与えるであろう業界も決して多くないからだ。関連市場の規模は大きくなるだろうが、専門性の高い分野であり、ビジネスチャンスと言うべきものではない。あくまで、今までサービスを企画する上で存在していたボトルネックが一つ取り除かれた程度の変化であり、他のテクノロジー同様、あくまでも手段であることを忘れず、情報収集に努めることが肝要である。