イネーブラとしての先進技術IoTを支えるエッジコンピューティング

IoTの急速な進化に伴って、それを支えるインフラに対する要求水準も高くなってきている。オンプレかクラウドかという二極論ではなく、クラウドを前提としつつも、要求仕様に応じてエッジコンピューティングやフォグコンピューティング(クラウドとエッジの中間にあたるノードにおける計算)を組み合わせるのがデジタル時代のIoTなのだ。

多くのヴァリエーションが考えられるIoTインフラを検討するためには、クラウドとエッジ双方の特性を理解しておく必要がある。その際に重要になる観点が「レスポンス」「処理性能」「セキュリティ」「コスト」の4つである。

2020年には全世界で400億個を越えると言われるIoTデバイスを有機的に機能させ、IoE(Internet of Everything)社会を実現するために、日々進化するエッジコンピューティングの基本を抑えておこう。
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2019.09.11

デジタル時代におけるエッジコンピューティング

エッジとはクラウドに対比する概念。コンピューティングリソースをクラウド化する価値が浸透し始めたのは2000年頃からだが、近年ではクラウドが当たり前のものとして浸透してきている。そのため、従来のクライアントサイドをことさらにエッジと呼ぶようになったのだ。

では、なぜこのエッジが注目されているのかといえば、IoTの急速な発展が大きなきっかけだと言える。IoTの発展は、スマートフォンやスマートウォッチといったモバイルデバイスに加え、製造現場や工事現場における機器なども含めた「ネットワークに繋がる端末」の増加を招いている。なぜなら、これらの端末にネットワークモジュールの改良(低電力化、低価格化)を施していく技術や、組み込み技術の発展とが組み合わさる事で、今日のIoTは発展してきたからだ。

そして、以上の経緯によってIoTに対する期待が高まった結果、広範なネットワークの中で「エンドポイントに近いコンピューティングリソース」の重要性が再認識されるようになった。つまり、これこそがエッジ注目の理由ということになる。

エッジコンピューティングは、クラウドコンピューティングのように1ヶ所にデータを集めてから大規模な処理をするのではなく、エッジで生成されたデータをエッジそのもの、またはその通信経路周辺で処理する考え方が基本だ。

具体的には、主にキャリア網で構成されることの多いWAN(Wide Area Network)の周縁部にエッジサーバを複数分散配置し、演算処理・ストレージ機能・アプリケーションプログラムの実行等に利用できる小規模なデータセンターのような環境を構築する。こうしてクラウドが担ってきた機能をエッジコンピューティング基盤に分散させることで、「クラウド側の負荷を軽減させ効率化を図る」ことを目指していける。

エッジとクラウドの両立

あらかじめ認識しておくべき前提として「エッジにしてもクラウドにしても、実際の活用シーンを考えた時にはどちらか一方に決め打ちということはない」のだということを踏まえておく必要がある。それぞれが得意なことを見極めた上で、どのようなシステム構成にするか(どこまでをエッジで処理するか)を判断してゆくことになるだろう。そして、これを判断する際には、以下の4つの観点が重要な鍵を握る。

・レスポンス
クラウドコンピューティングは大規模処理基盤を有するが、基盤の置かれているデータセンターまでの距離が遠い。そのため、処理・分析が完了しレスポンスが返ってくるまでに時間がかかる場合がある。特にIoTデバイス数のさらなる増加が見込まれる今後、トラフィックは逼迫し、より一層のレスポンス遅延が起こる可能性もある。一方エッジコンピューティングは計算処理やデータ保存等を行うリソースまでの距離が近く、同時に接続するデバイス数も小規模になるため遅延リスクが少ない。数ミリ秒の遅延も許されない場合、この特性が有益となる。

・処理性能
クラウドでは大手クラウドベンダーが提供する様々な機能を活用して、大量のデータを保管・処理・分析することができる。また、そのデータを機械学習モデルに学習させるなどの活用も可能であり、汎用性が高い。一方、小規模基盤を分散させて構築するエッジコンピューティングは、「データ処理」「情報のマスク」「推論」といった生データを最低限処理する能力のみを有する場合が多く、クラウドよりもできることが少ない。

・セキュリティ
クラウドにおいては一定のセキュリティがクラウドベンダーから提供される。加えて、場合によってはグローバルで冗長構成をとることが可能であり、必要性に応じて好きなだけ堅牢なシステム構成にすることが可能だ。一方エッジでは、「エッジと処理基盤で任意の環境を小さな単位で構築し、データの流れを制限・管理した上で、データがインターネットを介す場合は事前に情報をマスクする」といった工夫が求められる。

すなわち、設置者がセキュリティの強度を決定した上で、柔軟な構築が求められるということだ。運用・管理も各自で行う必要があるため、仮に基盤全てを常に監視できずに一ヶ所攻撃を受けて穴が開いてしまった場合、そこから複数の基盤を一気に攻撃されることも考えられる。こうしたリスクを軽減するためのIoTセキュリティはホットトピックであり、各社の製品が出回り始めているものの、クラウドに比べればまだまだ形式化が進んでいない状況だと言える。

・コスト
クラウド基盤では実質的に上限なくデータを保管できるが、その分のデータ送受信による通信コストやデータ保存によるストレージコストもまた上限なくかさんでいく。そのため、定期的なアーカイブや削除をコスト見合いで実施することが多いものの、エッジコンピューティングを活用すれば、データを近くの基盤で処理してからクラウド保管するデータを選択できるため、通信コストとストレージコストの双方を抑えられる。

ただし、分散設置する基盤の購入から保守管理までをすべて担わなければならないため、特にハードウェア周りの導入コストはかさむ。そのため初期費用を加味すると、データ量が少ない場合はクラウド偏重構成のほうがコストを抑えられる可能性もある。


以上のように、エッジとクラウドはそれぞれに得意不得意がある。双方のメリット・デメリットを理解した上で共存させる構成をとることが重要だ。

エッジコンピューティングの検討状況

工場機器の多い製造業界や、制御高度化が求められる自動車業界では特にエッジコンピューティング技術の研究・開発が進んでいる。

・製造
製造業はスマートファクトリー化によってIoT機器の導入が進んでいる。収集されるデータ量も増えており、今後さらなるIoT化が進むと機械同士のデータ共有や相互制御の実現が効率化の鍵となる可能性が高い。そのため、機械同士のデータを遅延なく流通・管理できるエッジコンピューティングとの相性が良く、日本を代表する大手企業やAIスタートアップが先陣を切って研究・開発する領域となっている。

事例:エッジヘビーコンピューティングの提唱と活用
エッジヘビーコンピューティングとは、エッジコンピューティングの研究を先進的に行っているファナック、Preferred Networksらが提唱しているものだ。データ処理の多くをエッジ側で行い、クラウドの利用割合を最低限に抑えるというという考え方で、『FIELD system』という工場IoTプラットフォームに活用されている。

例えば

(1)稼働状況監視・故障予知
(2)機械学習による作業高速化およびロボット制御高度化
(3)機械同士の学習情報共有といった「工場現場で収集できるデータの循環」

を、エッジのすぐ側で行っていく。これにより、工場内機器の動きを現場に最適化していくことを可能にするという、エッジコンピューティングの利点を柔軟に活用したシステムである。2016年に4社で始まった開発だったが、2019年時点で開発パートナーは500社を超えており、多くの企業から注目を集めていることがうかがえる。
参考:FIELD system パートナーとは

・自動車
コネクテッドカーや自動運転の実用化検証は世界的に検討されているが、その中で最大の課題が安全性である。自動車は制御判断が1秒遅れるだけで大事故に繋がるため、認識と判断のリアルタイム性は妥協が許されない。

それゆえに各社が切磋琢磨しているわけだが、矢野経済研究所によれば2025年のコネクテッドカー市場は2兆円規模となり、繋がる車の普及は急速に拡大すると予測されている。そのため、トラフィック混雑による通信遅延が懸念され、リアルタイム性を向上させるべく以下のようにエッジコンピューティングの活用が検討されている。

事例:業界コンソーシアムによる活用方針の検討
Automotive Edge Computing Consortiumはトヨタ自動車、インテル、NTT等が主となり創立された。コネクテッドカーの実現に向けて必要となるサービスの基盤構築を推進するための団体である。

ここでは高度な車両制御や、リアルタイムデータを用いた地図生成、運転支援などを実現するために、トラフィック負荷を軽減させデータ遅延を最低限に抑えるべく、エリア毎のデータ処理盤の構築を検討している。日本企業が中心となり創立された団体だがERICSSONやSAMSUNGといった海外企業も会員になっており、世界規模で自動運転へのエッジコンピューティング活用が検討されている。
参考:aecc membership

今後の展望

上記の通り、現在はエッジのレスポンススピードを生かした活用検討が進められているが、今後はさらに

A:ディープラーニングとの併用
B:利用領域の拡大


が進むと考えられる。

A:ディープラーニングとの併用
今はクラウド基盤でデータの解析・学習・推論すべてを行っていることが多いディープラーニングだが、今後はエッジ基盤との役割分担が進むと考えられる。従来でも機械学習の学習プロセスをエッジとクラウドで分散処理する工夫はなされてきたが、エッジデバイスの処理能力の向上に伴ってディープラーニングにおいても処理の分散化が進むということだ。

具体的には、IoTデバイスから収集された大量データの解析・前処理をエッジコンピューティングで行い、その後、学習データ等のみをクラウドに上げて分析するようになる。そうして「作成されたモデルを活用した推論を、エッジコンピューティングで行う」というわけだ。ディープラーニングはデータを処理する階層が多く、処理基盤の性能によっては結果が出るまでに多くの時間がかかることがあるが、エッジコンピューティングを併用することでその課題が軽減され、より一層の利活用拡大の要因になりうる。

B:利用領域の拡大
前述した製造業界や自動車業界以外の領域でも活用が進むと考えられる。例えば医療の領域では地方過疎化と高齢化に伴い、遠隔医療への期待が高まっているが、医療機器のリアルタイム制御の高精度化と安定性の確保が課題となっている。

すなわち、ネットワークに依存した遠隔医療ではなく、エッジを含めて冗長・分散した形での遠隔医療である。素早く高度な医療を幅広く展開できるよう、エッジコンピューティングを活用した医療プラットフォームの構築が進んでいくと考えられる。また、エンタメ領域においても活用の余地が多い。例えばスポーツ観戦においてはARグラスとの併用によってスポーツを見ながらリアルタイムで実況や観覧者同士のコメント共有などができるようになるかもしれない。

以上のように、エッジデバイスの増加に伴うIoT活用領域の広がりと、その精度・リアルタイム性向上に期待が高まる中、エッジコンピューティングの利活用を進め、より快適なユーザー体験の提供が期待される。