顧客体験の非連続な変革日本企業なりのデザイン思考の使いこなし方

デザイン思考を導入するということは、企業文化やプロセスにも手を付けるということである。

「走りながら変えていく」デザイン思考と、ウォーターホール型の手順を重視する伝統的な日本企業の考え方との相性はあまり良くない。デザイン思考を導入するにはメリハリが必要で、企業文化やプロセスとコンフリクトを起こしにくい「共感」ステップを最大限活用していくべきだろう。

そのためには、新規事業立案の「0を1にする」部分よりも、日常業務改善の「1を2や3にする」部分で徹底的に使っていくことである。
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2019.01.24

背景・トレンド

伝統的な日本の大企業にデザイン思考をそのまま導入することには、リスクを伴う。なぜならば、ハードウェア製造業のように、設計、製造、アフターサービスそれぞれに品質保証部門をつけているようなウォーターフォール型の企業に、いきなりソフトウェア的な発想に立脚するデザイン思考の全てを当てはめようとしても難しい。

日本の大企業をクライアントにした場合、引き合いとして多いのが「デザイン思考を使いながらワークショップ形式で新規事業や新規商品・サービスをやりたい」というものだ。そこで期待されるイメージ像は、例えば「部門横断的にプロジェクトメンバーが募集され、選ばれたメンバーたちは繁忙な通常業務の合間を縫って特別仕立てのプロジェクトルームに集合。カスタマージャーニーを描いた模造紙を壁に貼り、色とりどりの付箋紙を片手に、議論を交わす」というものだ。

縦割り組織の企業にとって、部門横断で集まった参加者たちが付箋を片手に議論するというスタイルは、十分に新しいものとして映るだろう。写真でも撮っておけば、「デザイン思考を使って、新しい製品アイデアを出しました」と、上層部への報告書の添付素材として大いに説得力を持つに違いない。バズワード化している「デザイン思考」を「とにかくやってみる」ことに主眼を置くのであれば、これでもよい。事実、大企業では書籍や講演で触れたバズワードに感化された上層部から、方法論(他にもAIやRPA、ブロックチェーンなど)を指定されてプロジェクトが結成されることは少なくない。

しかし、どのフレームワークにも言えることだが、形ばかりのスタイルを漫然と試すのではなく、企業文化にフィットするように留意し、メリハリをつけながら取り込むことが肝要だ。

デザイン思考の5ステップ

共感
  ユーザーに寄り添い、行動を観察する

問題定義
  ユーザーのニーズや問題点を明確化する

概念化
  ニーズを満たし、問題解決となるアイデアを生み出す

試作
  プロトタイプを作成する

テスト
  ユーザーに使ってもらい検証する
 

成功の要諦

伝統的な日本の大企業においては、最初のステップである「共感」を、最大限に活用することをお薦めしたい。難易度の高い「0から1を生み出す」新規事業の立案にわざわざデザイン思考を使うよりも、日常の業務で取り組んでいる「1を2や3にする」工程で、積極的に活用していく。企業文化やプロセスとのコンフリクトも起こりにくい。部門横断的にやらなくてもいいし、プロトタイプを作らなくてもいい。共感ステップをとことん普段使いすることである。
「共感」ステップでは、ユーザーを観察し、ユーザーの声に耳を傾け、真の欲求に迫ることが大切だ。モノやサービスがあふれる時代にあって、既存の製品やサービスが満たせていない真の欲求を発見していくところに醍醐味がある。

例えば、自動車メーカーのクライアントと、販売戦略の再検討を行っていたときのことだ。会議室で議論をしていて煮詰まってしまった。「こんなときは、フィールドワークをしてユーザーを観察しに行けばいい」ということになり、実際に販売店へ行ったり、周りにいる自動車ユーザーにインタビューをしたりして、ユーザーへ共感する機会を作るようにした。難しいことではない。デザイン思考のエッセンスを、普段の業務に当てはめただけのことだった。ただ、私たちが集めた生の声に対して、クライアントも食い入るように見入っていた。

ユーザーアンケートや、カスタマーセンターへ寄せられた声なども大切だが、現場へ出て、直接ユーザーを観察したり、インタビューしたりするところから得られることは多い。自身の常識ではなく、ユーザーの取る行動を是として捉えたときに、初めてユーザーへの共感ができる。

ある主婦は、掃除機のヘッドを別に買い足して掃除をしている。寝室のカーペットに掃除機をかける際に、ヘッドに絡みついているホコリがカーペットに下移りしてしまうのが嫌なのだそうだ。「なんという潔癖さだろう」と辟易していては、共感は難しい。ヘッドを買い足すこと自体を、まずは認めること。そうして、洞察や質問を重ねていくのだ。

会議室にこもるのではなく、フィールドへ繰り出し、ユーザーとダイレクトに接する中で、共感する。とことん普段使いをして、示唆を得る。通常業務の「1を2や3にする」のが、日本の大企業におけるデザイン思考のよい活用方法ではないだろうか。