イネーブラとしての先進技術ディープラーニングをめぐる企業の戦い

ディープラーニングは、膨大なデータと処理能力の向上によって、想像を超えるスピードで進化を遂げている。画像認識技術は、画像に加えて、3Dや動画、地図にまで技術変革を与える。いまや、ロボットの高度化にも可能性を見出されている。

ディープラーニングを使いこなすことは、企業の命運を握る重要課題である。日本企業は、技術の可能性を見極め、競争的位置付け、優位性を活かした戦略を築かなければならない。
2019.01.11

ディープラーニングとは

ディープラーニングは、機械学習の手法の1つである。生物の脳の神経ネットワークをモデルとしたニューラルネットワークという概念を原型としている。

脳の神経ネットワークは、神経細胞ニューロン、隣のニューロンと接合する部分であるシナプスで構成される。このニューロンから電気信号が発せられ、一定量以上の信号になるとシナプスを経由して連結しているニューロンに信号が伝達される。このように順々に信号が伝達されることで、脳全体で数百億のネットワークが構成されている。ニューロンの役割をノード、シナプスの役割をエッジと置き換えた人工的な仕組みをパーセプトロン(人工ニューロン)と呼ぶ。さらに、入力値を処理して出力するパーセプロトンに対して、中間層をおくことで処理を複雑化したものがニューラルネットワークである。この概念を応用して、ディープラーニングは中間層をさらに深めることで複雑な計算を実現する。

ディープラーニングと言っても、多層化するだけでなく、誤差逆伝播やReLU関数などを使い、様々なネットワーク構造が存在する。画像認識で有名なCNN(畳み込みニューラルネットワーク)をはじめ、RNN、LSTMなど、目的に応じて使い分けられている。

ディープラーニングの進化は、止まることを知らない。すべてを把握することは不可能だ。下図はオランダのASIMOV研究所が作成したチートシートであるが、新たなアーキテクチャが常に発明されているため氷山の一角に過ぎない。
出所:The Asimov Institute

ディープラーニングの進化がもたらすもの

現在、ディープラーニングは機械に眼をもたらしているが、東京大学の松尾豊准教授によれば、”特徴量の抽出"というディープラーニングの強みは今後、認識、運動、言語と発展を遂げ、2030年頃には人間の知識の獲得ができるようになる見通しだ。
  1. 画像特徴の抽象化から、より高次の分野に応用される
  2. 聴覚や触覚など、複数の観測データを組み合わせる抽象化が可能になる
  3. 自分の行動と結果の抽象化が可能になる(プランニング、フレーム問題の解決)
  4. 一連の行動を通じた現実世界からの特徴量抽出が可能になる(推論、オントロジー)
  5. 概念を理解することで、言語理解や自動翻訳が可能になる(シンボルグラウンディング、言語理解)
  6. 言語を通じた、人間の知識の獲得が可能になる(高次社会予測)
ディープラーニングの進化は、一定分野において、実証段階から実用段階へ進んでいる。また、活用先は、IT企業での活用が一回りし、非IT企業の方が潜在的に大きいということが世界的な合意になってきた。NVIDIA社長兼CEOジェン・スン・ファンは「これからディープラーニングが活用されるのは、自動車、農業、建設、産業ロボットだ」と唱え、世界トップレベルの人工知能研究者アンドリューエンは「最大の活用先は非IT企業だ」と唱えている。

ディープラーニングの進化スピードは、これまで考えられていたよりもはるかに速い。医療分野では、米FDA(食品医薬品局)が世界初AIドクターを認可した。顔認証分野では、顔認証大国中国において、Megviiやセンスタイムを筆頭に次々と導入実績を積み重ねている。客観的観測では、日本企業は取り残されてしまう可能性が高い。

今後の道筋

ハードウェアとの融合
ディープラーニングによる変革第1章の「認識」では、日本企業は遅れを取ったかもしれないが、第2章の「運動」はこれから始まる。深層強化学習によるロボット制御の実用化が進もうとしている。生物は、眼と耳がセンサーの役割を担って、情報が時系列に入ってくる。そして、手と足がアクチュエータとして物理的運動に変換している。これは報酬を与える前の事前学習として、世界が三次元構造だということを理解していることを意味する。そのため、様々なタスクを低次元に捉えることができている。これが機械の世界でも出来るようになるのはそう遠くない未来だ。

そこで日本の優位性が発揮される。1980年代、家電、自動車、半導体などで製造技術を確立し、工作機械などの専用機が電子化して産業用ロボットが一般化した。日本はロボット大国と呼ばれるようになったのだ。現在も日本は産業用ロボットの生産国世界一を維持している。ロボットアームのメーカーで言えば、安川電機やファナック、三菱電機などを筆頭に、ハードウェアとの融合が反撃のヒントになるだろう。

ポジショニングの見極め
今後の日本企業が取るべきポジションを3つのレイヤに分けて考えたい。すなわち、計算処理、アルゴリズム、サービスだ。

計算処理レイヤではどうか。ディープラーニングが発達した理由の1つは、GPUの発達である。CPUでは10日かかっていた計算を、GPUは1日で計算することができる。GPUの登場がディープラーニングの実用化を現実のものとした。その産業を変革する勢いを持つ、次世代コンピューティングエコシステムの中心に位置する中心にいるのは、NVIDIAに他ならない。5年間で500倍に成長したとも言われるこれらの半導体レイヤにおいては、既に日本企業が付け入る隙はないだろう。

アルゴリズムレイヤではどうか。ディープラーニングでは、数学知識とプログラミング技術が精度の高さを左右する。GoogleはTensorFlow、FacebookはPyTorchを拠り所とし、他の優秀な人材を抱える企業もそれぞれにプラットフォーマーの座を狙っている。日本企業としては海外から優秀な人材を集めつつも、割り切って公開されたAIモジュールを使う側に回る選択肢が考えられる。

サービスレイヤではどうか。Uberの時価総額は、米ゼネラル・モーターズや米テスラをも上回る。一方で、各国の規制当局との対立が急速な事業拡大の新たな摩擦を招いているのも事実である。日本市場においても同様なことが言える。日産とDeNAが実証実験を開始している「イージーライド」のように、日本の法規制や交通事情の課題を海外企業が進出してくる前に、解決することができれば参入障壁となり得る。日本企業にとって最も現実的なのが、このサービスレイヤだ。

これからディープラーニングを取り巻く市場は、垂直統合型と水平分業型のどちらになるにせよ、1社で戦っていくことは難しい。どこかのエコシステムの仲間となるかを見定める、または自社でリードしてエコシステムを築きあげる必要がある。そのため、日本企業の経営者はディープラーニングの技術と可能性を見極められる眼を備え、適切なポジショニングを急がなければならない。

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