オペレーション・ITの中期的変革デジタルリスクマネジメントの要諦

従来のリスクマネジメントには、4種類のアプローチが存在した。リスクそのものを自社で発生させない「回避」「転嫁」、リスクが発生した後で対応する「軽減」「受容」がそれに当たる。
 
デジタルを使ったリスクマネジメントでは、デジタル特有の「自動化」「精緻化」「リアルタイム化」という機能を活用して、これらのアプローチを「量」と「質」の面から効率化・高度化していく。

そこで注目されているのが、機械学習(AI)を用いたリスク予測の取り組みである。これにより、リスクが高まるタイミングでピンポイントに対策を打つことが可能となる。しかし同時に、これらの取り組みに必須となる機械学習を実務として使いこなすための人材も、新たに求められてきている。
この記事をシェア
2019.01.11
 デジタル・リスクマネジメントでは、デジタル技術の「自動化」「精緻化」「リアルタイム化」という機能を活用して、「回避」「転嫁」「軽減」というアプローチを効率化・高度化する。

背景

 企業は、コンプライアンスやガバナンスという標語の下で、長年リスクマネジメントの強化に努めてきた。グローバルで活用されているCOSOやCOBITのフレームワークを用いて、社内でのルール策定も進んでいる。さらに、個別のリスク対策として、「回避」「転嫁」「軽減」「受容」の観点による整理も進んでいる。リスクマネジメントの現場では、仕組みとして対応できることはやり切った感がある。
 
 ただ一方で、マスコミの報道では、不正会計や情報漏えいといったリスクの顕在化事例が紹介され、それに対する世間の追及はより厳しさを増している。そのため、リスクを一切発生させない「回避」に対策が偏ってしまう傾向もある。全てのリスクを「回避」しようとすると、巨額のコストがかかり、膨大な作業を現場に求めることになる。
 
 リスク対応への疲れが見えている中、デジタルが得意とする「自動化」「精緻化」「リアルタイム化」という機能を活かしたリスクマネジメントの高度化・効率化が始まりつつある。

アプローチ

 リスクマネジメントにおけるデジタルの活用は、「量」と「質」の両面において大きな価値をもたらす。「量」の面では、リスクのモニタリング対象範囲が、「自動化」により大きく拡大される。「質」の面では、「精緻化」として、従来では見落としていたリスクも緻密なデータ分析により掘り起こす。さらに「リアルタイム化」として、リアルタイムにデータを収集・分析することで、リスクを早期発見し、意思決定のスピードを改善する。

何をすればよいのか

PDFダウンロードにはサイトへのご利用登録が必要となります。
PDFをダウンロード 589.02kB

成功の要諦

 「自動化」の活用によるリスクマネジメントの高度化はイメージしやすい。いままでは、リソースの問題から抽出検査するしかなかったものを全数調査するだけだからだ。従来のリスク検知のシナリオもそのまま利用できる。一方で、「精緻化」「リアルタイム化」という機能を活用していくには、従来からのシナリオでは不十分だ。なぜなら、「精緻化」では、今までは検知できていなかった新たなリスクを対象とし、「リアルタイム化」では、対策に向けたリスクの要因までを見極めることが求められてくるからだ。

 そこで機械学習を用いて、リスクの発生可能性を予測する取り組みが始まっている。リスクの要因となっている因子を洗い出し、その関連の度合いを相関係数という形で数値化する。関連度合いの高い複数の因子を組み合わせることで、ミスや不正が発生する確率を「見える化」し、その変動からリスクが高まったタイミングでのピンポイントでの対応を可能にする。

 しかし、機械学習に対する認識不足により、機械学習を活用しきれず、逆に振り回されるケースが多くの現場で発生している。機械学習でのアルゴリズムの構築が目的化してしまい、現場での活用にまで十分な検討がなされていないことが目立ち始めているのだ。

 機械学習の活用にあたり、やるべきことは3つある。まず「経営の活用シーンから逆算したアウトプット設計」、次に「仮説思考でのリスク因子の抽出」、最後に「予測精度・説明可能性・運用コストを満たすアルゴリズム設計」だ。

 アウトプット設計では、経営判断に当たって求められる情報のレベル感を、関係者間で最初に共有できていれば、プロジェクトが迷走することはない。ただ、通常では、ビジネス側の人間は機械学習への理解度が低いため、プロジェクトの開始直後には実現可能なアウトプットを想定できない。分からないから見切り発車するのではなく、意思決定にあたり経営層が確認してきそうなポイントを先回りして、回答するために必要なデータとその粒度を想定しておく。それをデータサイエンティストに伝えるだけでも大きく結果は異なる。

 リスク因子の抽出では、データサイエンティストは、ビジネスモデルやオペレーションへの知識・勘どころが不足しているため、網羅的に検討をしてしまいがちになる。リスク予測のような、多種多様な検証対象がある場合には、膨大なデータ種類・量を分析していくことが求められる。プロジェクトを常識的な期間内に終えるためには、関係なさそうなデータを事前に検討対象から外して行く思い切りが重要だ。そのために、現時点での理解から、影響のありそうな因子を想定していく仮説思考が問われることになる。

 さらに、データサイエンティストは職人気質が多く、必要以上に精度を高めることに注力してしまうことも多い。アルゴリズムの設計では、予測の精度だけでなく、予測ロジックの説明可能性、運用コストのバランスを考える必要がある。

 以上の3つを実現するためには、機械学習の知見が不足しがちなビジネス側と、ビジネスに疎いデータサイエンティストの両者の架け橋となる「ビジネストランスレーター」の役割が必要となる。
 
 「ビジネストランスレーター」は、該当事業のビジネスモデルとオペレーションの知識を持つ。さらに、アルゴリズムを構築できなくとも、機械学習におけるインプット、アウトプットの関係を整理できている必要がある。その2つの知見を用いて、機械学習を使うために必要な因子仮説と、アウトプットの具体的な活用シーンまで落とし込むのが「ビジネストランスレーター」の最大の役割だ。