顧客接点でのデジタル活用「意味ある」PDCAサイクルとは

デジタルマーケティングでは、顧客に対するコミュニケーションのステップをシナリオとして準備することが多い。シナリオを描くには、まずマーケターが顧客の行動を観察したり、妄想したりして、行動ステップをカスタマージャーニーとして描いていくことになる。しかし現実には、観察できる顧客の数や行動の範囲が限られてしまうため、「妄想」の占める部分が大きくなる。すなわち、最初から間違いのない完璧なシナリオを作ることは不可能ということになる。

ただし、シナリオが完璧でなくても、修正していけばよい。幸いなことに、デジタルマーケティングでは顧客の反応を測ることができる。シナリオを試しながら、その中でターゲット顧客の反応をうかがい、修正していくことが可能だ。「いかにシナリオを柔軟に変え、顧客の行動データを活用していけるか」が、成否を決める。

現実の実行局面において、シナリオは個別のキャンペーンとして分割され、各キャンペーンは「セグメンテーション→タッチポイント→アクション」の順に企画されていく。事前に想定していた顧客の反応を得られない場合には、逆に「アクション→タッチポイント→セグメンテーション」の順番で検証をしていくことになる。そこでのポイントは、そもそもキャンペーンの「意図」は何だったのか。そして、個別のキャンペーンでの「意図」を再現できているか、という点だ。

これら一連のアクションを実際に実行する主役となるのが、MA(マーケティング・オートメーション)に代表される、デジタルマーケティングの実行基盤だ。具体的にMA以外の構成要素を列挙すれば、デジタルマーケティング戦略、顧客行動データ、マーケティングツール、ガバナンスモデルである。実行基盤を活用しながら、キャンペーンの目的を「意図」として落とし込み、実現と検証をしていく。それを高速でできれば、他社よりも早く成果に到達できる。最後に成果を決めるのは、PDCAサイクルの精度とスピードである。
2019.01.11

背景・課題意識

熟練したマーケターがシナリオをいくら練っても、ターゲットとなる顧客は必ずしも想定通りの反応をしてくれない。経験や思い込みが邪魔をして、顧客の実態に見合うシナリオになっていない可能性もある。担当マーケターを責めることは簡単だが、教科書通りのペルソナとカスタマージャーニーを作り込んでも成果が出るとは限らない。「必ず成功するマーケティングシナリオ」など存在しない。いくら時間をかけて、自信を持って臨んでも、顧客は思い通りには動いてくれない。顧客にとって赤の他人であるマーケターが、顧客の日常を観察して、それ以外を妄想しながら作成するのがカスタマージャーニーであり、妄想に依存する部分がある以上、パーフェクトに想定できないのは当然のことといえる。

「マーケティングシナリオは作り込むものではなく、修正していくものだ」という発想の転換。これが出発点となる。

アプローチ

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成功の要諦

先述の通り、「最初に作ったマーケティングシナリオで、狙い通りに顧客が反応してくれる可能性」は小さい。実施前にシナリオを作り込むのではなく、顧客の反応を基にシナリオを柔軟に変えていくという発想の転換が求められる。

現実には、顧客とのタッチポイント上で最初から最後までのシナリオを一度に実行できる機会は少ない。B2Bマーケティングの世界では、ホワイトペーパーのダウンロードから始まり、情報提供を定期的に行いながら、顧客の興味・関心を高めていく。最終的に営業部門に有望顧客(MQL:Marketing Qualified Leads)として渡すまでに、数ヶ月から1年近くかかるのが普通だ。そのため、個別のキャンペーンを組み合わせて、一つのシナリオを完成させていくことになる。個別のキャンペーン毎に、ターゲットを切り出すセグメンテーション、ターゲットにアプローチするタッチポイント、行動を変化させるアクションを設定していく。その上でキャンペーンを実行してみて、ターゲット顧客の反応から修正すべき点を探していく。

キャンペーンを「企画→実行→検証→修正」するためのプロセスが、マーケティングにおける最小単位のPDCAサイクルとなる。一般的には「Check(検証)」と「Action(修正)」の段階が重要だと言われることが多いものの、本当に重要なのは「Plan(企画)」の段階だ。デジタルマーケティングで成果を出せていない企業に話を聞くと、大半は「Check」「Action」の部分に課題があると思い込んでいる。もちろん、データの収集・分析基盤を整備していくことは非常に重要なことだ。ただ、「Check」「Action」の業務プロセスやテンプレートを頑張って整備し、分析に強い人材を配置していても、「Plan」がなければ、示唆のない分析レポートの量産を起こしかねない。

キャンペーンに意味のある修正を施していくのであれば、「Plan」の段階で、キャンペーンの「意図」の明確化と再現性の担保という2つのポイントを検討しておくことが重要だ。
  • 「意図」の明確化:キャンペーンで検証したい目的や対象が明確なこと
  • 再現性の担保:「意図」の実現度合を比較検討可能な形で、キャンペーンを繰り返し再現できること
「Plan」の段階でキャンペーンの「意図」を明確化できていないと、本当の意味でPDCAサイクルを回したことにはならない。キャンペーンを何回実施しても、次回のキャンペーンに向けて改善すべき点が見えてこない事態に陥ってしまう。キャンペーン毎のCVR(Conversion Rate)やCPA(Cost per Acquisition)を単に比較しても、コミュニケーションステップの導線やコンテンツの文言をどう変えてよいか分からない。キャンペーンの結果ではなく、プロセスの中で顧客が行動変化を起こしたきっかけを探りたい。そのためにまずは、個別のキャンペーンの中で、顧客が行動の変化を起こしたアクションを特定していく。分かりやすい例では、コンテンツの効果検証の一手法であるA/Bテストがある。例えば、銀行が金利キャンペーンを実施する際に、金利の引き下げ率だけを表示するのか、仕上がりの金利例までを表示するのかどちらが良いかという話である。

実際のキャンペーンでは、アクションだけを検証すれば良いわけではない。他にも、ターゲットの設定に使った属性と顧客の行動が適切だったのか、タッチポイントとして使ったメディアが適切だったのか、といった「意図」もある。たくさんの観点がある中から、実態に即している可能性が高く、検証して意味のあるものだけに絞り込まなくてはならない。企業の実情を見ると、キャンペーンの中にたくさんの「意図」が盛り込まれ過ぎていて、結果として何が効いたのか分からないケースや、「それを検証してどうするの」ということを検証対象にしてしまっているケースが多いことに気づく。

「Plan」でキャンペーンの「意図」を正しく絞り込んでいくためには、まずは羅針盤としてデジタルマーケティング戦略が必要だ。デジタルマーケティング戦略で決めたターゲット、チャネル、ゴールに整合した形で、キャンペーンが設計されているかを確認する必要がある。特に、ズレてしまいやすいのはゴールだ。例えば「新規顧客のサイトへの流入数を増やしてサイトパワーを高める」ことをゴールとしていたはずなのに、実行する局面で「既存顧客をターゲットとした広告の出稿に終始していた」というのは良くある話だ。さらにいえば、戦略と整合しているかどうかを確認するために、ガバナンスの仕組みが整っている必要もある。

具体的な対応としては、まず「Plan」での業務プロセスやテンプレートを作り込む。そして、その中で強制的に戦略との整合性を担保するための仕掛けがあるか否かを確認していく。

では、たくさんある「意図」を検証していくにはどうすれば良いのか? キャンペーンを次々に実行しながら、結果にどのような差異があったのかを検証していかなくてはならない。キャンペーンを同じ条件で繰り返し実施できる再現性を持っていないと、どの「意図」が当たっているかを検証できないし、修正を反映もできない。そのため、セグメンテーションを精緻に行うための顧客の属性・行動のデータ基盤と、セットアップしたアクションを間違いなく再現し、アセット化できるマーケティングツールが求められる。顧客を精緻に切り出すことができれば、毎回異なる顧客にアプローチしてしまい、観点に沿った検証ができなくなるような事態はなくなり、正しく検証を実施していける。また、アクションを毎回手作業で設定するのではなく、高速でいくつものキャンペーンを繰り返し実施していく局面に相応しいマーケティングツールを得れば、さらに実効性は上がる。

こうして再現性を担保することに成功すれば、高速PDCAサイクルは実現できる。ただし、くれぐれも忘れてはならないのが、検証の「意図」を明確にした上でサイクルを回すということ。高速PDCAによってデジタルマーケティングを成功させるための最大の鍵がそこにある。

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