顧客体験の非連続進化デジタル変革の起点となるカスタマーエクスペリエンス(CX)

デジタル時代には、顧客が全ての決定の主導権を握っている。デジタルビジネスでは、顧客がプロダクトの価値を、短い時間でシビアに判断していく。価値を認められなければ、見向きもされない。

顧客が製品・サービスの価値を判断するための基準は、何になるのだろうか。例えば、クラウドストレージのサービスを考えてみると、ただ「安い」だけでは、フリーミアムのプロダクトが多く、あまり売りにならない。「便利」が加われば、ユーザーインタフェース(UI)の良さから、市場を席巻することができる。実際に、後発のDropboxは、使いやすさで先行企業を抜き去った。こうした顧客の価値認識を一言で説明したのが、カスタマーエクスペリエンス(CX)という視点だ。顧客が商品・サービスを使っているプロセスの中での価値、つまり経験価値を重視する。

経験価値を検討するためには、一人ひとりで異なるCXの捉え方をトレースする。それには、個客(ペルソナ)と、個客の取る行動の連鎖であるカスタマージャーニーを考えるというのが一般的なアプローチだ。リアル・バーチャルを問わず顧客の行動を観察し、変化をタイムリーに把握する。「より細かく精緻に」が合言葉になり、顧客のWebサイト上でのカーソルの動きを捕捉するようなサービスも根付いてきている。

顧客の行動変化のタイミングをとらえて、速やかに自社の商品、サービス戦略の方向転換を図っていく。顧客中心主義の発想がさらに強まり、企業の行動までもを変えつつあるのだ。
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2019.01.11

背景

 デジタル化によって顧客、特に消費者の行動の変化が激しくなり、企業がその変化を先取りするのは難しくなっている。顧客が先にデジタル化しているという事実は、デジタル時代を語る上で欠かせないキーワードでもある。顧客が全ての決定権を握り、その決定の要因は外部からは見えにくくなり、顧客本人でさえも言葉にできなくなっている。

 一方で、デジタル変革では、議論の観点が社内に向きがちである。自社の視点から、販売チャネルのデジタルへの転換、オペレーションのデジタルによる効率化、デジタル推進組織の設立、といった内向きの議論に集中してしまう。そこに、顧客の姿は見えず、顧客の変化に対して、自社が提供する価値をどこに向けて変革していくかという議論はない。

何をすればよいのか

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成功の鍵

 デジタル変革を進めるためには、顧客の行動を観察して、行動プロセスの中で何を価値として認識しているのかを掘り下げなくてはならない。 顧客の価値認識の変化の兆しをとらえた企業が、自社のビジネスモデル、オペレーション、IT、組織・人材の変革を通じて、顧客に提供できる価値の革新にまでたどり着く。それがDXの本質である。提供価値の革新において重要なのは、モノ・サービス自体の機能としての価値ではなく、モノ・サービスを使うことで心地よいと感じてもらう経験価値である。つまり、顧客がモノ・サービスを使った時の、カスタマーエクスペリエンス(CX)への理解が必要となる。

 顧客がどのような経験に価値を感じるかを意識しないまま、顧客への対応を進めている例がとても多い。CXを理解するための前提となる、ペルソナ、カスタマージャーニーを作っている企業はまだまだ少ない。ペルソナを作り、その顧客になりきったつもりで、カスタマージャーニーを妄想していく。顧客の全ての行動を観察することはできないので、その人になりきってしまう方が早いのだ。カスタマージャーニーの妄想なしに作ったモノ・サービスは、確かに機能は以前よりも良くなっているけど、顧客はあまりすごいとは感じていない。

 顧客になりきり、個客を意識すると、求めているCXが千差万別であることに気づくだろう。その上でCXの充足を追求していくと、行き着く先はパーソナライゼーションになってしまう。それは、オークションやクラウドファンディングのWebサイトを見ると、すぐに納得できる。

 ただ、パーソナライゼーションを実現しようとすると、すぐにジレンマに陥ってしまう。個客に向けて、モノ・サービスをカスタマイズすればするほど、オペレーションが複雑になり、コストも上昇していく。当然、今までのビジネスモデルでは儲けられなくなる。マーケティングを例に考えてみよう。入手できる顧客の行動データが増え、ターゲットを個人単位まで細分化しやすくなっている。その中で、意味のあるパーソナライゼーションまでしようとすると、マーケティングのシナリオが複雑になり、表示するコンテンツを大量に用意する必要が生じる。実行が難しいだけでなく、コストもたくさんかかる。

 ビジネスとして成り立たせるためには、「顧客からのお金のもらい方」であるビジネスモデルを根本から見直さなくてはならない。さらに、それに合うように「マス・カスタマイゼーション」というオペレーション、ITの仕組み、それを担う組織も人材も見直さなければならない。つまり、CXを高めようとすれば、パーソナライゼーションを実現できるように、ビジネスモデル、オペレーション、IT、組織・人材の全てを根本から見直すことが必要になる。それがデジタルトランスフォーメーションの出発点であり、究極の目標でもある。