ベイカレントの考えるデジタル変革のゴールデジタル変革の起点となるカスタマーエクスペリエンス(CX)

 デジタル時代には、顧客が全ての決定の主導権を握っている。デジタルビジネスでは、顧客がプロダクトの価値を、短い時間でシビアに判断していく。価値を認められなければ、見向きもされない。

 顧客が製品・サービスの価値を判断するための基準は、何になるのだろうか。例えば、クラウドストレージのサービスを考えてみると、ただ「安い」だけでは、フリーミアムのプロダクトが多く、あまり売りにならない。「便利」であれば、ユーザーインタフェース(UI)の良さから、市場を席巻することができる。実際に、後発のDropboxは、使いやすさで先行企業を抜き去った。「安い」よりも「便利」が圧倒的な価値を持つことは、従来の提供価値の枠組みでは説明しきれない。こうしたデジタル時代の顧客の価値認識を一言で説明したのが、カスタマーエクスペリエンス(CX)という視点だ。顧客が製品・サービスを使っているプロセスの中での価値、経験価値を重視する。

 経験価値を検討するためには、一人ひとりで異なるCXの捉え方をトレースする。それには、個客(ペルソナ)と、個客の取る行動の連鎖であるカスタマージャーニーを考えなくてはならない。リアル・バーチャルを問わず顧客の行動を観察し、変化をタイムリーに把握する。顧客のWebサイト上でのカーソル動きを捕捉するようなサービスも根付いてきている。

 顧客の行動変化のタイミングをとらえて、速やかに自社のサービス、商品戦略の方向転換を図っていく。顧客中心主義の発想がさらに強まり、企業の行動を変えつつあるのだ。
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2017.11.20

トレンド・背景

 デジタル化によって顧客、特に消費者の行動の変化が激しくなり、企業がその変化を先取りするのは難しくなっている。特に、デジタルデバイスの乗り換えスピードは速く、企業側の対応が少しでも遅れてしまうと、提供しているサービスからの大量離脱という痛いしっぺ返しをくらってしまう。顧客が全ての決定権を握り、その決定の要因は外部からは見えにくくなり、顧客本人でさえも言葉にできなくなっている。

 一方で、デジタル変革では、議論の観点が社内に向きがちである。自社の視点から、販売チャネルのデジタルへの転換、オペレーションのデジタルによる効率化、デジタル推進組織の設立、といった内向きの議論に集中してしまう。そこに、顧客の姿は見えず、顧客の変化に対して、自社が提供する価値をどこに向けて変革していくかという議論はない。

何をすればよいのか

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成功の鍵

 デジタル変革を進めるためには、顧客の行動を観察して、行動プロセスの中で何を価値として認識しているのかを掘り下げなくてはならない。

 顧客の価値認識の変化の兆しとらえた企業が、自社のビジネスモデル、オペレーション、IT、組織・人材の変革を通じて、顧客に提供できる価値の革新にまでたどり着く。それがDXの本質である。誤解してはいけないのは、Appleのようにまったく新しい価値を顧客に問いかけて、顧客の行動自体に変化を起こすことは、DXが目指すものではないということ。あくまで、顧客の行動変化の兆しをとらえて、自社の提供価値の革新を果たしていくことである。

 提供価値の革新において重要なのは、モノ・サービス自体の機能としての価値ではなく、モノ・サービスを使うことで心地よいと感じてもらう経験価値である。つまり、顧客がモノ・サービスを使った時の、カスタマーエクスペリエンス(CX)への理解が必要となる。

 顧客がどのような経験に価値を感じるかを意識しないまま、顧客への対応を進めている例がとても多い。なぜなら、CXを理解するための前提となる、ペルソナ、カスタマージャーニーを作っている企業がまだまだ少ないからだ。ペルソナを作り、その顧客になりきったつもりで、カスタマージャーニーを妄想していく。顧客の全ての行動を観察することはできないので、その人になりきってしまう方が早いのだ。カスタマージャーニーの妄想なしに作ったモノ・サービスは、確かに機能は以前よりも良くなっているけど、顧客はあまりすごいとは感じていない。

 顧客になりきり、個客を意識すると、求めているCXが千差万別であることに気づくだろう。その上でCXの充足を追求していくと、行き着く先はパーソナライゼーションになってしまう。それは、オークションやクラウドファンディングのWebサイトを見ると、すぐに納得できる。たとえば、ヤフオク!では、飼育用のカタツムリが980円で落札されていたりする。

 ただ、パーソナライゼーションを実現しようとすると、すぐにジレンマに陥ってしまう。個客に向けて、モノ・サービスをカスタマイズすればするほど、オペレーションが複雑になり、コストも上昇していく。当然、今までのビジネスモデルでは儲けられなくなる。マーケティングを例に考えてみよう。入手できる顧客の行動データが増え、クラウドツールの導入も進みつつあり、ターゲットを個人単位まで細分化しやすくなっている。その中で、意味のあるパーソナライゼーションまでしようとすると、マーケティングのシナリオが複雑になり、表示するコンテンツを大量に用意する必要が生じる。実行が難しいだけでなく、コストもたくさんかかる。

 ビジネスとして成り立たせるためには、「顧客からのお金のもらい方」であるビジネスモデルを根本から見直さなくてはならない。さらに、それに合うように「マス・カスタマイゼーション」というオペレーション、ITの仕組み、それを担う組織も人材も見直さなければならない。つまり、CXを高めようとすれば、パーソナライゼーションを実現できるように、ビジネスモデル、オペレーション、IT、組織・人材の全てを根本から見直すことが必要になる。それがデジタルトランスフォーメーションである。一方で、個別の要素の見直しに留まるのが「単なるデジタル化」であり、その延長線上ではDXは決して起きない。