日本企業のデジタルトランスフォーメーションのあり方デジタルインテグレーションの概念

セルフディスラプターとして、事業構造の変化まで達成することがDX(デジタルトランスフォーメーション)の本懐であるが、日本企業においてこれを達成することは容易な道のりではない。かといって、小手先のIT化に留まっていては、今後の成長性だけでなく、企業の存続性さえも危ぶまれる。どんな形であっても、デジタル化を前に進めなければならない。

そこで、既存事業の中でデジタルとの親和性の高い領域を見定め、既存を主としつつも外部のデジタル要素を最大限に統合(インテグレート)するという選択肢が考えられる。我々はこの考え方を、オペレーションの効率化を目指す「デジタルパッチ」と「デジタルトランスフォーメーション」の間に位置づける「デジタルインテグレーション」と定義している。
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2019.01.11

背景・課題意識

デジタル技術の進化はとどまることなく、我々の生活はどんどん快適になっている。顧客たる生活者の選択肢が増え、目が肥えていく中で、企業としてはどのような価値を提供していくのかを見定めていくことが必要となる。デジタルに没頭する顧客に寄り添い、ディスラプターの追撃をかわすため、日本企業のデジタル武装は待ったなしである。

このような状況の中で経営者の危機感は高まり、デジタル推進の専門組織を設けて、DXに取り組む企業も多い。それをサポートするためにコンサルティング会社を始めとする事業者も取り組みを行っており、まさにDXは花盛りに感じられる。

だが、どこへ向かうべきなのか、目標が定まっていないのが多くの企業の実態ではないだろうか。とりあえず走り出し、走りながらゴールを見つけようということなのだろう。それもやり方としては否定できないものの、「ビジネスモデルを変革しよう」と経営層が情報を発信しても、その方向が定まらなければ、何をどのように変えて行って良いのか、従業員は戸惑うだけになる。

アプローチ

一足飛びにDXを実現しようとするのではなく、自社の実態から、デジタルに親和性の高い領域を見定めて、そこに外部のデジタル要素を統合する「デジタルインテグレーション」が現実解になる。デジタルインテグレーションはDX実現に向けた重要なマイルストンと位置付けられるため、対象となる要素はDXと変わらない。すなわち「ユーザー・CX(カスタマーエクスペリエンス)」「戦略・組織」「チャネル」「オペレーション・IT」「データ基盤」「テクノロジー」の6つの要素が対象となる。

デジタルインテグレーションの考え方

ユーザー・CX
CXにおいては、モノ売りからコト売りへの考え方の変革を実現するためにデジタルを活用することになる。すなわち、「モノを買ってもらう」「所有してもらう」ことよりも「使ってもらう」ということに焦点を当てるということだ。「使ってもらう」には、「誰が」「どのような場面で」ということを考えなければならない。顧客を消費者ではなく生活者と考え、どのようなCXを提供するべきかを決める。そしてCXを実現するためには、デジタルテクノロジーが力を発揮する。
 
戦略・組織
インテグレーションの段階は、DX戦略の見定めが完了する頃合いでもある。数年後のDX完遂を視野に入れた中期計画を策定する企業も多いだろう。また、戦略に従うための組織の変革として、アジャイル型組織への変革も要求される。DXの完遂には、試行錯誤に耐えられる組織形態が必須となるからだ。アジャイルを進めるために、優秀なデジタル人材の登用も必要となるだろう。こういった外部人材と統合も、一つのインテグレーションだ。
 
チャネル
チャネル、すなわち顧客とのタッチポイントにデジタルを活用する真価は二つある。「顧客理解」と「提供形態」だ。提供すべきCXを決めるためには、顧客の行動原理を今まで以上に理解することが求められるが、デジタルにはそれを実現する力がある。デジタル化したタッチポイントを活用することで、顧客の行動をつぶさにトラッキングすることができるからだ。また、理想とするCXを実現しようとすると、デジタルを活用してサービスの提供形態を変える必要があることに気がつくだろう。顧客に合わせてカスタマイズされたCXを提供するためには、デジタルチャネルを通したサービス提供が不可欠だからだ。
 
オペレーション・IT
オペレーション・ITのデジタル化における主要論点はやはりコスト削減だ。本当の意味でのBPRを伴うかたちで、自社の構成要素をデジタルと融合させる。それによって、コスト構造の抜本的転換を図るのだ。痛みを伴う改革となるため、経営者には相当な覚悟が求められる。しかし、この段階でデジタル化が完了していないと、DXには耐えられない。DXではオペレーション・ITの両方が、「守り」から「攻め」へと転じる必要があるため、インテグレーションの段階で守りを完成させておくのだ。将棋の純文学と言われる矢倉のように、ガッチリ守ってから攻めに転ずるのが日本企業のDXである。
 
データ基盤
データはDXの要となる、最も重要な要素だ。インテグレーションの段階では、データを活用する基盤をまさに構築する必要がある。自社だけでなく、外部のデータも合わせて活用する基盤を作るためには、データレイクに代表されるシステム基盤だけでは不十分だ。データの価値を企業内で最大化(=レバレッジ)させるための戦略と、その戦略を推し進め、自社内のみならず他社とのデータ流通を管理する”CDO”(Chief Data Officer)が求められることになる。ソフトとハードが揃ってこそのデータ基盤なのだ。
 
テクノロジー
インテグレーション段階で自社に統合されるテクノロジーは、当然効果が明確になった”枯れた技術”だけでは不十分だ。先進的なテクノロジーを継続的に自社に統合していくためには、企業としてテクノロジーを見極める目が養われている必要がある。具体的には、デジタルパッチの段階ではデジタル組織が一部の先進技術について理解していた知見を全社に浸透させる。そしてデジタル組織自身は先進技術を後追いで理解する段階を卒業し、世の中に先行するユースケースを実現する形でテクノロジーを活用するのだ。

成功の要諦

デジタルインテグレーションを成功に導くための要諦は2つある

戦略から着手する
デジタル化であるかどうかに関わらず、企業変革が戦略策定から始まるのは自明のことでありながら、DXというと目の前の「できそうなこと」に振り回されてしまうケースが散見される。バズワード化した「DX」の周辺には、同じくバズワード化した「PoC(実証実験)」「機械学習」といった言葉が踊っており、情報が大量に手に入るためだろう。これらに関するソリューションも大量に提供されているため、確かに「すぐに始められる」状態にはなっている。しかし、費用対効果の有無に関わらず、戦略の策定を軽んじるべきではないのだ。スピードが求められるデジタル時代だからと言って手当たり次第に取り組んでいては、無計画と言われても仕方がない。「失敗しても修正する(アジャイル)」という考えを拡大解釈してしまうと、「失敗しても取り戻せる」企業文化に染まって行くだろう。

オペレーション・ITにできるだけ早く着手する
戦略が決まれば、その中で変革のロードマップが描かれているはずだ。大抵の場合、企業戦略は効果が大きく、着手しやすいものから優先されていることだろう。しかしDXの場合、オペレーション・ITにはできるだけ早く着手することをお勧めしたい。理由は、オペレーション・ITの変革が最も困難で、痛みを伴うためだ。言い換えると、日本企業のDXを阻害している最大の要因が、レガシーなオペレーションとITなのだ。時間がかかり尚且つ、なかなか効果が出ないことは承知の上で、覚悟を持って取り組む必要があるだろう。中期的変革であることが前提であるため、トップマネジメントのコミットメントが最も求められる。すなわち、CEO・CDOを中心とした変革の推進者たちの腕の見せ所なのだ。