DXに挑むには
DXは大胆に進める必要がある一方で、拙速に成果を求めるとうまくいかないことが、当社の経験上わかってきている。デジタル技術の導入や、デジタル組織の新設などを進める企業は数多くあるが、すぐに成果が出ないまま組織が有名無実化してしまう企業も散見される。これらの取り組みは意味ある一歩ではあるが、それだけでは事業構造の根っこは変わらない。特に規模の優位性を武器に戦ってきた企業には、これまでのビジネスの慣性が大きく働く。変化に向けた一手を十分な時間をかけて浸透させていくことが重要だ。
当社では、DXを進めるにあたって、着実に成果を生むための提言や、知見の紹介を行っている。中でも特に重要なものが、DXを段階的に進めていくコンセプトである。DXを成し遂げるまでの道中、「デジタルパッチ」、「デジタルインテグレーション」というゴールを設定し、変革に伴う痛みを最小限にとどめながら、着実な成果を出して行くやり方だ。さらに、事業構造の転換に含まれる要素を、「ユーザー・CX」「戦略・組織」「チャネル」「オペレーション・IT」「データ基盤」「テクノロジー」とし、それぞれにおいて具体的な変革の方法論について提言を行っている。
1990年代に日本の半導体産業の猛攻を受けたインテルは、事業構造を大きく転換して危機を乗り越えた。そのときの経営の舵取りを担った故アンディ・グローブ氏は、著書「Only the Paranoid Survive」で当時をこう振り返っている。「戦略転換点は、当事者にとっては苦しい時期だが、発射台から飛び出し、より高いレベルに上昇することができるチャンスでもある」
DXは、単なるデジタル化への対処ではない。デジタルで様変わりする競争を勝ち抜くための事業構造の転換だ。顧客が変わり、競合が変わり、自社の戦略も、社員も変わらなくてはならない。それを成し遂げた先には、大きなビジネスフロンティアが広がっている。