デジタルビジネスでの壮大な勘違いデジタルビジネスでの「稼ぎ方」

 デジタルビジネスの立ち上げにおいて、ビジネスアイデアを出す事だけでは当然ながら不足であり、実際にビジネスモデルとして必要な要件を補完してゆく必要がある。この、ビジネスの「仕立て」の段階がデジタルビジネスでは特に重要だ。どれほど優れたアイデアであっても仕立てかたを失敗すると、顧客からは陳腐で魅力のないサービスに映ってしまう。
 

 仕立ての段階で補完されるビジネスモデルの要件の中でも、お金の「稼ぎ方」は選択肢が多く、頭を悩ませやすいポイントだ。フリーミアムモデルやサブスクリプションモデルといった、エンドユーザーから直接料金を徴収するB2C課金モデルの他に、広告、成果報酬、データ販売といったB2Bでよく採用される課金モデルもある。そしてこれらの「稼ぎ方」が、誰にでも使いやすくなってきているという事が特筆すべき変化だ。具体的には、デジタルサービスを提供するコスト(限界コスト)が圧倒的に小さくなり、資本の厚みがない事業者でも無料提供をしやすくなった。また、ユーザーからお金をもらう方法の柔軟性が高まっている。決済プラットフォームを使うことで、ユーザーの所在地域に関係なく、タイミングと金額を自由に設定して、リアルタイムに決済の完了まで進める事ができる。


 この、使いやすくなった「稼ぎ方」を組み合わせて、デジタルビジネスの事業者達は、ユーザーの数と収入の最大化のバランスを取ろうとしている。そして、お金の「稼ぎ方」の複雑さは、従来のビジネスよりも増している。複雑さを増す「稼ぎ方」を整理するため、我々は、課金モデルの種類として、36種類に整理している。この中から、自社のユーザー、そして提供している経験価値に見合った課金モデルを選び出すためには、自社のサービスの特徴と、サービスを利用する中でユーザーが感じる価値をよく理解しなければならない。

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2018.05.09

トレンド・背景

 デジタルビジネスの立ち上げにおいて、ビジネスアイデアを出す事だけでは当然ながら不足であり、実際にビジネスモデルとして必要な要件を補完してゆく必要がある。この、ビジネスの「仕立て」の段階がデジタルビジネスでは特に重要だ。どれほど優れたアイデアであっても仕立てかたを失敗すると、顧客からは陳腐で魅力のないサービスに映ってしまう。

 仕立ての段階で補完されるビジネスモデルの要件の中でも、お金の「稼ぎ方」は選択肢が多く、頭を悩ませやすいポイントだ。フリーミアムモデルやサブスクリプションモデルといった、エンドユーザーから直接料金を徴収するB2C課金モデルの他に、広告、成果報酬、データ販売といったB2Bでよく採用される課金モデルもある。そしてこれらの「稼ぎ方」が、誰にでも使いやすくなってきているという事が特筆すべき変化だ。具体的には、デジタルサービスを提供するコスト(限界コスト)が圧倒的に小さくなり、資本の厚みがない事業者でも無料提供をしやすくなった。また、ユーザーからお金をもらう方法の柔軟性が高まっている。決済プラットフォームを使うことで、ユーザーの所在地域に関係なく、タイミングと金額を自由に設定して、リアルタイムに決済の完了まで進める事ができる。

 この、使いやすくなった「稼ぎ方」を組み合わせて、デジタルビジネスの事業者達は、ユーザーの数と収入の最大化のバランスを取ろうとしている。そして、お金の「稼ぎ方」の複雑さは、従来のビジネスよりも増している。

 デジタルサービスのスタートは、収益化を検討できる規模の顧客基盤を持つことから始まる。そのために事業者は、SEOによって検索表示の順位を上げたり、リスティング広告を実施したりする。なかには、億単位のコストをかけて、テレビCMを展開する事業者もいる。

 こうしてユーザーを集めた上で、「稼ぎ方」を選択していくことになるわけだが、最も簡単なのは広告モデルだ。GoogleやSSP(Supply Side Platform)が提供するプラットフォームを利用する事で、Webやアプリ等に広告の表示エリアを用意し、数行のコードを埋め込むだけで広告主からの出稿を集める事ができる。電通1)によると、2016年の国内ネット広告費は約1兆円。莫大なお金が動いているのは事実だ。

 ただし、この広告モデルはその参入障壁の低さが原因となって、稼ぐことを難しくしている。例えばキュレーションサービスの場合、「アプリのダウンロードが1,000万を超えないと、サーバーコストを賄うことができない」という話も聞く。ところが多くのデジタルメディアでは競合メディア増加によるユーザーの取り合いが起き、じりじりとユーザー数は減って来ている。すなわち、広告モデルだけに依存するような、単一の「稼ぎ方」では十分な収益を得られなくなっている事情がある。

 複雑さを増す「稼ぎ方」を整理するため、我々は、課金モデルの種類として、36種類に整理している。この中から、自社のユーザー、そして提供している経験価値に見合った課金モデルを選び出すためには、自社のサービスの特徴と、サービスを利用する中でユーザーが感じる価値をよく理解しなければならない。

何をすればよいのか

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成功の鍵

 デジタルビジネスを成長させ続けるには、広告モデルに頼るだけではなく、他の稼ぎ方を探さなくてはならない。既に広告入札プラットフォームがWeb上で用意されていて、どんな事業者でもアクセスできる。利用コストにあまり差がないため、広告モデルを導入するハードルは低い。そのため、次々に新規の事業者が参入して来て、レッドオーシャンになる。競合がひしめけば、広告収入が上がらないのは当然のこと。そうなれば、どうしても目標としていた収入額を確保するべく、広告モデル以外のモデルを検討するケースが多くなっている。

 とはいえ、広告モデル以外の稼ぎ方でも、大きく状況は変わらない。安いクラウドサービスや決済代行業者が存在して、誰でも使いやすくなっている。もはや、「稼ぎ方」だけでは、競合との違いを出しにくい。また、ひとつだけの「稼ぎ方」にこだわりすぎると、新たに参入してくる事業者に狙われやすい。例えば、広告モデルだけの場合には、成果報酬モデルをぶつけられると弱かったりする。お金を払う側からすると、実施する前に費用対効果が見える方が、リスクも少なく「安心」できるからだ。実際に、リクルートが展開するホットペッパーがシンプルな広告モデルをメインに採用しているのに対して、後発の楽天の同種サービスは成果報酬モデルを用いて戦いを挑んでいる。

 ユーザーを課金先とするプレミアムサービスを追加で導入しているケースも目立つ。広告モデルとフリーミアムモデルを組み合わせるのだ。飲食店の紹介サイトである食べログはその代表例だ。飲食店からの広告収入が「稼ぎ方」の中心であるものの、追加で月額300円を払うことで、飲食店のランキング検索や特別なクーポンを入手できる。他にも、第三者に匿名化した顧客データを販売するデータプロバイダーという形態も、Public DMPを始めとしたデータを売買する仕組みの浸透とともに活性化してきている。

 以上の例のように、複数の「稼ぎ方」を組み合わせて、競合がすぐにマネできない形、そして、新規参入者に弱みを狙い撃ちさせない形にしていく。それが、デジタルビジネスにおける「稼ぎ方」の新たな潮流だ。例えば、Amazonは、プライムサービスにおいてフリーミアムとサブスクリプションのモデルを融合させている。配送のお急ぎ便、日時指定を一定回数無料で利用できるフリーミアムモデルを活用してエントリーした顧客に対して、配送以外にプライム・ビデオやミュージックの使い放題を加えたサブスクリプションモデルを訴求している。配送面の優位性だけを見れば、自社の配送網を持ち、常に無料で配達日時まで指定できるヨドバシカメラ等が有利だ。だからこそ、動画や音楽のコンテンツ提供のサブスクリプションまで踏み込むことで、他のECにはマネできない稼ぎ方を実現している。

 「組み合わせによってユーザーの価値判断の基準をズラす」という副次的な効果もある。組み合わせることで、それぞれの「稼ぎ方」の弱みを補完するのだ。Amazonプライムの話に戻ると、プレミアムサービスだけでは、購買頻度の少ないユーザーとしては「損」をしている気になる。そこにサブスクリプションというコンテンツ使い放題サービスを織り交ぜることで、「毎日見るTVの代わりだと思えば得なのかな」と思わせることが可能になる。

 デジタルビジネスの競争は、今後激しくなる一方だ。それゆえに「組み合わせの妙」を狙わなければ、なかなか勝ち続けることはできない。その中で問われるのは、やはりデジタルビジネスを通じて提供している価値と「稼ぎ方」とが、きちんとマッチしているのかどうかだ。サービス利用時に感じる経験価値との間で、ユーザーに違和感を生じさせてはならない。例えば、メルカリは販売手数料10%という形で成果報酬モデルを採用している。一方で、プレミアムサービスに課金するフリーミアムモデルは使われていない。「便利」や「安心」といった経験価値と一部のユーザーだけを優遇するコンセプトがマッチしていないのだ。サービスコンセプトと合致して、課金先に違和感を持たせない形で見せなくてはならない。それには、自社のサービスが提供しているカスタマーエクスペリエンス、つまり経験価値をもう一度見つめ直す必要がある。さらに、価値に見合った「稼ぎ方」の最適な組み合わせを見つけなくてはならない。