デジタルビジネスでの壮大な勘違い日本企業はデザイン思考をどう使いこなすのか

 デザイン思考では、顧客が行動する中で感じている不満・不足の「不」を解決するために、顧客に意識を集中して製品・サービスを検討する。その中で、既存の製品・サービスでは満たせない要素があれば、従来のやり方に引きずられることなく、製品・サービスをゼロから見直していく。結果として、今までにないイノベーションが起きることも多い。

 デジタルビジネスもまた、顧客の気付いていない「不」に注目して、新たな経験価値を提供していく。両者に共通するのは、顧客起点の発想と、行動プロセスの中でのカスタマーエクスペリエンス(CX)を重視する点だ。そして、考え方の親和性が高いがゆえに、デザイン思考は、昨今のデジタル時代に改めて脚光を浴び、採り入れられているのだ。

 デザイン思考のコンセプトはシンプル。顧客の「行動をデザインする」ことに尽きる。「モノ」をデザインするのではなく、製品・サービスの利用シーンである「コト」をデザインするということだ。重要なエッセンスとして、顧客を観察するための「共感」、アイデアを創るための「発散と収束」のプロセス、実現するための「プロトタイピング」が存在する。しかし、このデザイン思考を使いこなすのは非常に難しい。その理由は、「競合との違いは何か?」という差別化要素や、「どこで金儲けするのだ?」というマネタイズの観点を、アイデアを創る段階で問い始めてしまうところにある。つまり、ビジネスモデリングの考え方をデザイン思考に持ち込んでしまうのだ。
この記事をシェア
2017.12.27

トレンド・背景

 デジタルに関するコンサルティングを行う中で、カスタマーエクスペリエンス(CX)という言葉をよく聞くようになってきた。「このサービスでは、どのようなCXを狙っていくのかまだ見えていない」とか、「この機能を追加したところで、CXが上がるのか」という形で、CXという言葉が使われている。

 ビジネスモデルの中核である顧客への価値提供を考えるのにあたって、CXの向上という観点が重要な要素になりつつあるわけだ。しかし、CX自体が、捉えどころのない存在であり、取り扱いに苦労する日本企業も多い。その中で、一つの答えとして出てきているのが、デザイン思考である。このデザイン思考という言葉は、関連記事などを毎日見かけるくらい浸透しつつあるものの、その実体を十分に理解できていない人も多いようだ。デザイン思考プロセスの「型」は分かったものの、ビジネスで成果につなげるには、どうしたら良いのかが、今ひとつわかりづらいようでもある。はたして、どうすればデザイン思考をビジネスに活用していくことができるのだろうか。
 

何をすればよいのか

PDFダウンロードにはサイトへのご利用登録が必要となります。
PDFをダウンロード 902.97kB

成功の鍵

 「デザイン思考には、造形や色彩への鋭さのような“デザイナーとしての感性”が求められる」と一部では言われているが、ビジネスマンの多くは合理性の追求を考えて生きてきた。それゆえに、感性を求められる創造のプロセスに対して気後れしてしまうようだ。だが、デザイン思考は特別な「デザイナーとしての感性」が求められるようなものではない。
 
 重要なのは「行動をデザインする」ために、顧客が何を「不」と感じているのかを明らかにしていく事だ。その中で求められるのは、自らも一人の顧客として「不」を感じ取れる感性。その感性を働かせるには、顧客と同じ立場に立って、顧客と一体となった目線で観察するしかない。そのためには、まずは顧客を知り、顧客と同じ経験を自分の「目」と「耳」で体感して、「共感」していく必要がある。そして、顧客と同じ場所、時間に自分を置かなければ、共感することはできない。ただただ顧客に没入して、顧客すら意識していない「不」への気付きを得ていく。顧客に没入する事を繰り返す中で、インプットされた内容をうまくサービスに落とし込めるようになってゆく。それこそがサービスをデザインするという事であり、だからこそ「デザイン」思考なのだ。

 以上のステップを進めていくためには、普段から多くの人に会って、その価値観や行動の特性に触れておくことが有効だ。それでもなかなか気づきを得られない場合には、一つの方法として、極端な行動をとるエクストリームユーザーを観察するということが行われている。両極端なエクストリームユーザー同士の使い方の違いが、製品・サービスを考える際の新たな気づきを提供してくれるのである。例えば、アクティブなシルバー向けのサービスを考えるとしよう。旅行に頻繁に出かけているお年寄りを探すのは普通だが、あえて「心」はお年寄りでも、「身体」は若者な人として、おばあさん役になることが多い舞台女優を観察の対象にするのも一案である。

 「共感」を通じて、顧客の「不」を解決するために新たな経験価値を見出すことは、イノベーションそのものだ。イノベーションは既存の経験や知見を組み合わせることで生まれる。デザイン思考の文脈に置き換えると、顧客の既存の経験の中で、顧客と製品・サービスとの新たな関係性を見出すことになる。そのために、アイデアの「発散と収束」というプロセスがある。アイデアを発散させるために、観察してきたことを目的と手段に分けてみたり、目的と手段を強制的に結びつけてみたりということを繰り返す。直感的に気になった目的だけを固定して、それにさまざまな手段を掛け合わせてみたり、逆に手段を固定して、目的を掛け合わせてみたりすることもできる。

 以上のような段階にまで進むと、チームとしての多様性が問われる。企業内での所属組織、勤続年数、経験業務のばらばらなメンバーをチームとして構成し、コラボレーションを促していくことになるが、すでに日本企業においてもそうした取り組みが進んでおり、クロスファンクショナルチームやファシリテーションという言葉が浸透している。弊社で実際にアイデア創出のワークショップを行う場合には、発散の段階で「雑音」を入れないことの方が大きいと感じている。「雑音」とは、ビジネスモデリングの観点である。競合とか自社を意識した時点で、その枠内に発想が閉じてしまう。そうすると、カスタマーエクスペリエンスだけに集中することが出来なくなり、実現性・実効性といった発想に制限をかけるものに囚われてしまうことになる。

 収束では、目的別やシーン別にアイデアを整理・統合していくが、デザイン思考の中ではそれほど重視されていない。次の段階でのアイデアの練り直しの方がよっぽど重要だと考えられている。実際にアイデアを形にするプロトタイピングである。
 
 アイデアが固まってきたら、実際に作ってみることになる。アイデアを創った人が、とにかく形にしながらアイデアを深掘りしていく。”Build to Think”という発想だ。自分でプロトタイピングを進めていくことが、デザイン思考の斬新さだ。実際にプロトタイピングを体験してみると、作りながら新たな発想が出てくる感覚が分かるだろう。ダーティー・プロトタイピングという言葉がよく使われることからもわかるように、この段階は「うまく作ろう」とか、「きれいに作ろう」と考えてはならない局面なのだが、ついつい人は設計図を描きだして手順を考え、見た目をきれいに加工しようとしてしまう。そうすると、手が止まる時間が多くなる。それではうまくいかない。とにかく手を動かし続けていないと、新たな発想が刺激されないのだ。
 
 だから、この部分を他の人に任せてはならない。アイデアを磨き上げるチャンスをみすみす逃してしまうことになるからだ。日本企業で多い失敗例は、アイデアが出来た時点で外部にプロトタイピングを任せてしまうパターンだ。メーカーであれば、リソース効率化の観点から、社内で設計だけをして、試作機の製造を外注してしまうこともある。サービス業であれば、新サービスの画面のモックアップ版を作るにしても、社内にプログラミング人材がいないので、アウトソースしてしまう。そうではなく、社内で「共感」→「発散と収束」→「プロトタイピング」を回しきれることが、デザイン思考を使いこなすためには必要なのである。