デジタル時代に問われる組織・人材の行末シリコンバレーで日本企業は人材や機会を活かせるか

 シリコンバレーへ進出する日本企業の数は過去最高に達している。日本企業は、駐在員を送り込み、新しい技術の発掘や現状把握に傾倒している。しかしそこには厳しい現実がある。シリコンバレーのスタートアップ企業は、日本企業を本当の相手として期待していないように見える。日本企業の進出の目的が、明確になっていないからだ。現地に対する権限委譲が十分でないため、投資や提携の意思決定もスピーディに行えない。

 本当に事業を行うのであれば、シリコンバレーの文化・価値観に忠実に従う必要があるだろう。では、シリコンバレーにおいて守るべき点(ベストプラクティス)とは何だろうか? 少なくとも3つ考えられる。1)シリコンバレーでの要員を、本社から完全に切り離さない、2)情報収集や投資は徹底的に行う、3)シリコンバレーの文化を吸収して徹底的に真似る。日本がシリコンバレーからもっとも学ばなければいけないのは「ビッグピクチャーシンキング(自分以上の考え方)」。長期的な事業成功よりも、小金持ち思考に陥りがちな日本のエコシステムに新たな一手を打たなければならない。
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2017.11.20

トレンド・背景

 デジタル時代に組織と人はどう成長すれば良いのか。デジタル組織や人材を考える上で、デジタルでのイノベーションを起こし、ディスラプターを生んでいるシリコンバレーを無視できない。

 シリコンバレーでは160社以上のユニコーンが存在し、スタートアップ企業にとって魅力的な聖地と言える。投資家たちの間では2001-02年のドットコム・バブル再来が危険視される中、スタートアップへの投資額はその当時の1.3倍に膨らんでいる。

 しかし、日本企業はシリコンバレーの英知を駆使するような組織構造や人材のプールを持っていない。大金をつぎ込み、人を送り込んでも、それだけでは成果を上げるのが難しい。ここではその実態にスポットライトを当てながら、今後のどのようにしていけばよいのかを考えていきたい。

何をすればよいのか

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成功の鍵

■ 加熱する日本企業のシリコンバレー進出
 シリコンバレーでは現在160社以上のユニコーンが存在し、スタートアップ企業にとって魅力的な聖地と言える。ユニコーンとは幻造世界(ファンタジア)に登場する一角白馬のことで、時価総額10億ドル(約1,100億円)のバリュエーションがつく企業のことを指す。

 専門投資家たちの間では2001-02年のドットコム・バブル再来が危険視される中、投資額はその当時の1.3倍強に膨らんでいる。米Wall Street Journalによると、今既にベンチャー投資額がUSD630億ドルに登り、ドットコムピーク時の480億ドルを大きく凌駕している。UberやAirbnbといったメガスタートアップに注目が集まる中、実は少し斜め下をみれば大物企業がひしめいている。

 そんなシリコンバレーへ進出する日本企業の数は過去最高に達している。(*1) 2016年には770社に上る日本企業がシリコンバレーへ進出した 。現在、単純計算で4万人以上の日本人がシリコンバレーで働いていることになる。トヨタ、コマツ、ヤマハといったデジタル事業と間接的な関係にある事業が軒並みオフィスを構えている。

 一方で、多くの企業の進出の目的が、明確になっていないのが実態だ。日夜、情報取集と日本の本社側の対応に追われている駐在員。大手のベンチャーキャピタルに出資し、独自でもCVC(コーポレイトベンチャーキャピタル)を立上げ、シリコンバレーで一旗揚げようと必死である。「しかし残念ながら目的意識はあまりはっきりしていないところが多いのです」とスタンフォード大学で研究員をしている櫛田氏は語る。


■ 厳しい現実
 日本企業は新しい技術の発掘や現状把握に傾倒しがちである。シリコンバレーに来て20年近く経つ櫛田氏によると、このマインドセットがスタートアップとの協業を遠ざけていると言う。中には、日本企業から100件以上もアポが殺到するスタートアップ企業がある。ただ、そのほとんどが「ギブアンドテイク」のテイク(情報取集)だけになってしまうと言う。

 投資すら検討にいれていないが、本社からの重役の思い出作りの一環(余興)としてシリコンバレーのスタートアップ企業は捉えられている。目的なしに「デジタルをどうにか実現したいから」などと、安易な考えでシリコンバレーなどのスタートアップのアイデアに耳を傾け、投資をするのは危険である。

 シリコンバレーで成功するためには、自社で事業アイデアを練り、それを成長させるエコシステムをつくらなければならない。コマツのシリコンバレーにおける投資や提携を任されている冨樫氏は何度もシリコンバレーと日本を往復し、明確なソリューションスペースを決め(GPS以外の優れた方法)、本社の経営幹部層を深くプロセスへ絡ませた。実行フェーズに移し、6か月以内にこのドローンビジネスの商業化(商品化)へと至っている。成功へとつながったのもコマツでは情報共有に留まらず、情報をどう駆使し、なにをするか、相互ベネフィットがあるか、必要人物との関係構築・コミュニケーションは十分か、など複数の側面から事業エコシステム体制を築いていたからだ。Skycatchは、商用ドローンから得られたデータを複数のプロダクト(サービス)として提供している。


■ ベストプラクティスから学べること
シリコンバレーにおいてやるべき点は、以下の3点である。

1)シリコンバレーでの要員を、本社から完全に切り離さない
多くの日本企業は駐在員を送り込んで拠点をシリコンバレーに構えている。しかし、コレといった目的もなければ、実績にリンクされたKPIも設定していない。情報がこれほどにも充満、拡散している時代、敢えて拠点を設けなくてもバーチャルに情報収集することは可能であるし、多くの場合、興味がある領域だけに特化した形で、その都度出張をすればこと足りる。コマツも現地のVCやCVCへ出資をし、駐在員は置かずに、本社と現地を行き来している。

2) 情報収集や投資は徹底的に行う
米ハーバード大学の教授がドキュメンタリーでこんなことを言っていた。「情報(Information)と知識(ナレッジ)はまったく違うものだ。前者は収集しても混乱するだけで役に立たない。後者になって始めて活きる。そのためには目的が必要だ」と。中途半端な情報取集とはすなわち目的が伴わないもの。その一番大きな障害となるのが、「とりあえず」という言葉。「とりあえず、シリコンバレーの動向を探ろう。とりあえず、AIチャットボットについて情報を集めよう」などだ。

3)シリコンバレーの文化を吸収して徹底的に真似る
スタンフォード大学研究員の櫛田氏によると、ヤマハ発動機はシリコンバレーに進出した企業の中で活躍している日本企業の一つだという。その理由が「ヤマハ本社にディスラプションを起こしてもいい」という合意を得ていることだ。氏によるとヤマハのシリコンバレー法人CEOの西城氏はこのミッションを基に、僅か10か月で SRI(*2) と一緒にヒト型自律ライティングロボ「MOTOBOT」を作ったと言う。発想は常に日本本社がないものを取り入れて実行しているという。

■ 日本がシリコンバレーから学ばなければいけないのは「ビッグピクチャーシンキング(自分以上の考え方)」
 直近の10年間において、日本のベンチャーの数はほぼ横ばいになっており、スタートアップすることに大きな魅力がない。経済産業省が野村総合研究所委託で調査を行っている大学発ベンチャー調査結果によると平成20年から28年度においてベンチャーの数はほぼ横ばいしている。下記のグラフに記載はないが、平成28年度は1,851社と前年の1,773社に比べ増加していることが分かるものの10数年前の伸びではない。 

 起業したとしても、大成功を収めるよりも、時価総額が数億、十数億に達するとすぐに売りたがる傾向にある。ある日本のベンチャー投資家によると、日本のスタートアップは近年、「ビジョン云々より、小金持ちになりたいだけのカルチャー(風習・文化)なのだ」という。時価総額が数億、十数億に達するとすぐに売りたがってしまう、と彼は嘆いていた。一度だけでなく何度もこのようなコメントを聞いた。ほとんどの人が現状の暮らしに満足していて、平和で豊かな日本で巨大な富を得て何をすれば良いのかわからない。そしてその起業家たちも苦戦している。取り巻く投資環境も短期的で、長期に腰を添えてもらえない。日本では投資家となりうる多くの人たちは起業家出身ではなく、いわゆる「サラリーマン投資家」。

 「会社をなるべく大きくしたい」という欲求よりも、「手持ちの金を増やしたい」との思いが透けて見えるのだ。日本が平和だと考えることができそうだが、起業には向かない文化だと思えてしまう。米エコノミストなどが起業家データの収集のために良く使用するシンクタンクGEDI(The Global Entrepreneurship and Development Index)の2017年総合起業家ランキングによると、日本は25位。アメリカは無論ダントツの1位、スイス2位、カナダ3位、イギリス8位、ドイツ12位、台湾16位、シンガポール24位、などが先行する。

 このままいくと、どんどん「大きく考える」ことが苦手になっていくだろう。シリコンバレーから英知を吸い上げるのであれば、その小技だけでなく、柔道でいう一本背負いをしてほしいものだ。


(*1) https://www.jetro.go.jp/ext_images/usa/SurveyReport2017_JETRO.pdf
(*2) スタンフォード研究所として設立され、現在はアメリカのNPOである、世界で最も大きな研究機関のひとつ