ベイカレントの考えるデジタル変革のゴール日本企業におけるデジタル変革の3つの形態

 デジタル技術の導入により、企業は従来積み上げてきた差別化の要素を失いつつある。顧客は企業よりも一歩先にデジタル技術を活用しており、企業は後ろから追いかけることを余儀なくされている。突然現れるデジタルディスラプターは、破壊的イノベーションを武器に業界での今までの競争ルールを変えようとしている。

 従来の戦い方ではデジタル時代を生き残れないことは、日本企業の間で共通認識となりつつあり、デジタル技術を活用した変革は待ったなしである。ただ、業界や企業を取り巻く環境により、デジタル変革に求められるレベルも大きく異なるのも事実である。出てくるか分からないデジタルディスラプターの脅威だけでは、社内を突き動かす力も限られてしまう。

 日本企業のデジタル変革に向けた現状の取り組みから、3つの形態が見えてくる。まずはデジタルによるオペレーションでの効率化を目指す「デジタルパッチ」、次にデジタル化の要素を融合しながら顧客の経験価値の向上を目指す「デジタルインテグレーション」、最後に破壊的イノベーションを用いてあらゆる要素をデジタル変革する「デジタルトランスフォーメーション」である。顧客、競合、ベンチャーの動きを見ながら、自社がどこまでを目指すのかというデジタルビジョン、そして、いかに実現していくかのデジタル戦略がより問われている。
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2017.11.20

トレンド・背景

 デジタルトランスフォーメーションは、もともとはデジタル技術による日常生活の変革を示していた。デジタル技術の活用を仕掛けるアップル、グーグル、マイクロソフト、アマゾン、フェイスブックのビッグ5が強力なデジタルプラットフォームを提供し、消費者も事業者も含むユーザーの生活を変えていく。

 従来の事業であれば、職人芸的なノウハウが求められる部分が必ず存在し、そのノウハウが大きな差別化の要素であった。伝統の技は徒弟制度により引き継がれ、外部が真似をすることは困難を極めた。その職人芸的ノウハウもデジタルに取って替わられようとしている。職人芸の属人的なノウハウを人工知能(AI)で置き換える動きも進んでいる。

 その裏には、デジタル技術が安価で手軽に使えるようになったことがある。クラウドサービスやAPIによる外部サービスとの連携により、少ない初期投資でAIを始めとするデジタルの機能を活用できる。

 結果として、企業が自社の差別化要素を守り続け、それを価値として提供し続けることは、デジタルの世界では難しくなっている。顧客はデジタル技術の活用で常に一歩先を行っており、企業が自社のノウハウを持って顧客を待ち構えることはできない。

何をすればよいのか

  
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成功の鍵

 「デジタルパッチ」「デジタルインテグレーション」、デジタルトランスフォーメーション(DX)というのが3つのデジタル変革の形態だが、「他社が導入しているから」という横並び意識で始めてしまうと、どんな取組みでも競争優位性を得ることは難しい。一歩先の変革を目指している競合他社や、新しい発想を持ち込もうとしているディスラプターには歯が立たない。

 効率化を目指す「デジタルパッチ」では、個別のオペレーション、個別の顧客接点をデジタル化していく。既存の業務プロセスや組織体制を見直すには良い機会だ。大企業であるほど、長年築き上げてきたオペレーション、チャネルというネットワーク、ITシステムなどの遺産(レガシー)を抱えている。デジタル活用できる範囲を見極めるのと同時に、企業の活動全体を「見える化」する必要がある。とはいえ、既存のサービスや業務の延長線上で考えれば良く、事業部門内で必要に応じて臨機応変に対応できるため、短期間での成果を出しやすい。

 その反面、競争優位性に向けた、持続的なイノベーションにはなりづらい。顧客に対して「便利」や「お得」といった点を訴求できるものの、その価値だけで、顧客との「持続的な」関係を持てるかは疑問である。各部署がバラバラに技術を導入し、企業全体から見たときにコントロールが効かなくなるリスクが生じる。

 「デジタルインテグレーション」では、カスタマーエクスペリエンス(CX)の向上を目指して、既存の社内の仕組みに外部のデジタル化の要素を融合していく。DXでは、セルフディスラプターとなって、ビジネスモデル、オペレーション、IT、組織・人材の全ての要素を自ら変革していく(「デジタルインテグレーション」とDXについては、個別のテーマにて詳述する)。

 「3つの形態のうち、どこまでを目指すべきか」については、業界や企業の置かれた環境により異なる。その中で、多くの企業で立ち上げられているデジタル組織が、変革にどのように関わるかが問われる。デジタル組織には、「新しい技術の本質を理解する」「新しい技術を自社に取り込む」「社内のデジタル感度を上げる」の三つの役割がある。さらにデジタル組織の形態として、「全社横断型組織」「事業特化型組織」「デジタルイノベーション型組織」「機能特化型組織」がある。

 「全社横断型組織」は、全体最適の観点でデジタル戦略を立案・推進する。大企業に必須の組織であり、各事業部門のデジタル担当者や組織はそれに整合する形で、より具体的にデジタルビジネスを計画・実行する。「事業特化型組織」は、特定の事業領域において、集中的にデジタル戦略を実行するため、その事業に特化したデジタル組織を置く。「デジタルイノベーション型組織」は、既存の事業や業務のデジタル化ではなく、デジタル技術を活用した新しいビジネスモデルを立ち上げる組織だ。デジタルの時代に自社が取り組むべき課題を設定し、次の事業の柱になるサービスを育成する。「機能特化型組織」は、バリューチェーンにおける特定の機能に対して、デジタル化を推進する。人工知能(AI)やモノのインターネット化(IoT)などの新しいデジタル技術を導入することで、業務を効率化・高度化することが目的である。

 「デジタルパッチ」であれば、「事業特化型組織」や「機能特化型組織」が有効に機能する。事業部門が今の業務を進める中で必要と感じているデジタル化の取り組みを、デジタル組織が担う。それによって事業部門の現場とデジタル組織との信頼関係も構築する。重要なのは、実際の取り組みは「事業特化型組織」「機能特化型組織」が担うとはいえ、全社視点を持った「全社横断型組織」が司令塔になり、各事業部門の取り組みが技術面や方向性の面でバラバラにならないように留意することである。

 「デジタルインテグレーション」では、「全社横断型組織」が最も機能する。「全社横断型組織」が強いリーダーシップを発揮し、「事業特化型組織」や「機能特化型組織」はそれに沿った形でデジタル武装を進める。大事なのは全社で一貫性のあるサービスの実現を図ることである。「デジタルパッチ」よりも「全社横断型組織」がデジタル化を引っ張る力は強くなる。

 DXについて言えば、新しいビジネスモデルを社内、ステークホルダーに受け入れる準備が整ったと判断できれば、この最終ステップの変革に取り組める。「料金体系の変更を顧客が受け入れる」「ビジネスモデルを変えることに株主は賛成」「社員は積極的に関与している」といった状況である。「全社横断型組織」や「事業特化型組織」だけでなく、これまでにない新規ビジネスの創出を担う「デジタルイノベーション型組織」の活躍・貢献も重要になる。