デジタルと既存ITの融合既存部門との協力体制を築く

 デジタル変革の取り組みが進み、PoCで一定の成果が出てくると、いよいよ実ビジネスへの展開というフェーズになってくる。日本でも、そろそろこういう局面を迎える企業が多いように思えるが、実は社内抵抗勢力との衝突などが発生し易いタイミングともいえる。せっかくPoCで思い通りの成果を出していても、出鼻をくじかれる危険性があるのだ。

 PoC以降は「トライアル運用」、「実ビジネスへの展開」といったフェーズへと進むことになるが、そうなれば既存のビジネスやITを巻き込んだ取り組みとなるため、社内の事業部門やIT部門が絡むことになる。これらの既存部門と、どこまで協力体制を組めるかどうかが極めて重要。デジタル化に対する会社のビジョン、デジタル組織の役割、個別施策の目的を正しく理解してもらい、徐々に協力体制を築いていけるかどうかが問われる。
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2017.11.20

トレンド・背景

 デジタル化によって、ビジネスモデルやオペレーションを大きく見直す企業も出てくる。見直し自体は、自社にとって必要不可欠なものにも関わらず、業務プロセスが大きく変わるとなると、新しい知識やノウハウが必要となるため、事業部門からネガティブな反応をされかねない。

 また、IT部門は既存システムをしっかりと守ることが至上命題である。障害が発生しないよう細心の注意を払うため、まだ世の中で実績の少ない新しい技術を使うのはリスクが大きいと、保守的な立場を取られてしまう可能性がある。

 新しい技術を追求するデジタル組織としては、どうするべきか? 反発を招きかねない全社を巻き込んだ一気呵成のアプローチではなく、少しずつ社内に味方を増やしていくアプローチを考えなくてはならない。

何をすればよいのか

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成功の鍵

■ デジタル組織の在り方
 デジタル化の取り組みが急務とされる昨今において、デジタル組織は強いリーダーシップを発揮することが求められる。新しいことにチャレンジする責任の重さに加え、少人数で幅広い試行錯誤を続けていくため、一人ひとりの役割も多い。新しいデジタル技術の研究とビジネスモデルのアイデア出しの双方を推進しなければならない。

 とはいえ、既存組織の意向を無視して進めるようなやり方であってはならない。事業部門やIT部門からの協力を得るために、論理的な説明を行い、「彼らが言うなら仕方ない」と社内に認められることが必要だ。デジタルトランスフォーメーションまで目指すのであれば、「破壊的イノベーション」(*1)を求められるが、組織のリーダーが破壊的推進者であってはならない。デジタル組織に閉じた環境で実証実験(PoC:Proof of Concept)を成功させるまでの行程は、変革のための通過点に過ぎない。PoCの成功の後、他部門を巻き込むことにも成功し、PoCの成果を実ビジネスにまで展開できたときに、初めて役割を果たせたと言えるのだ。


■ 事業部門との関わり方
 会社の収益を支えているのは既存の事業部門だ。しかもデジタル戦略が実を結んだ場合には、彼らがサービスを提供する部門となる。そのため、デジタル化への理解と協力が得られなければ、変革を実行することは難しくなる。いくら良いデジタル戦略を描いても、開始時点では大きな収益にならず業務量も多くならない。特に「破壊的イノベーション」は従来の顧客とは違う層を狙う目的が強いため、今の事業で既存顧客に力を集中させた方が良いと判断されてしまう可能性もある。

 そのため事業部門には、デジタル戦略の必要性と既存の事業に与えるインパクトを伝えていくことが重要となる。事業部門は今の事業・サービスについて収益責任を負い、継続的に改善活動を行ってきている。世の中を賑わせている新しい技術について、メディアで触れたことはあっても詳しく知らない可能性が高い。だが、日々技術がどの程度進歩しており、どのような可能性を秘めているのかについては理解してもらう必要がある。顧客から尋ねられる場合もあるだろうし、競合他社の動向を耳にする場合もあるからだ。

 デジタル組織からは最新の動向についてわかり易く伝える。身近にあるデジタルサービスを題材に、そこにどのような技術が使われているのか、それが今後どのようなインパクトを与える可能性があるのかなど、トピックに焦点をあてて事例を交えて伝えると良い。

 加えて、ユーザーの声も有効である。事業部門はどうしても今のサービスや業務の改善に着目しがちだ。目の前のユーザーがどのようなデジタル体験をしているのかを知ることで気付かされることも多い。手法としては、Webを使った調査や、顧客を集めた座談会などで具体的な情報を収集すると良い。


■ IT部門との関わり方
 新しい技術でサービスを立ち上げたITシステムは、IT部門が管理・保守を行っていくことになる。現在盛んに導入されているRPAなどは事業部門が独自開発しているケースも多いが、今後の運用まで考えるとIT部門が取りまとめておいた方が良い。新しい技術を社内に導入するという取り組みはIT部門の方が詳しく、適切に評価するスキームも持っているはずだ。これまでの経験から、「何が良くて何が悪いのか」を技術的な目線で判断すると参考になる。従ってIT部門の技術要員に、新しい技術の検討段階から参画してもらった方が良い。

 ただしIT部門を巻き込む際の注意点は、保守的な判断をくだされる傾向にあることだ。 “守りのIT”を担ってきたIT部門は、「世の中で十分な実績がない」として、これまでの技術を使った方がリスクも開発工数も少なくて済むと判断する可能性が高い。もちろん、障害を起こすことなく既存のIT資産を維持・管理することは最低限必要だ。だが企業が生き残るためには、デジタル化のスピードを上げることも重要な課題になっている。技術の進歩とサービス提供のスピードに付いて行かなければ、生き残れない。IT部門の協力なしにはサービス化は実現できないため、技術要員を介して積極的に情報連携していくことが重要となる。

 デジタル組織は、「新しい技術を積極的に活用する」マインドを浸透させる活動から始めると良い。“攻めのIT”にも積極的に取り組める環境を整える。「強固で障害が起きない業務システムを構築する」ことに加えて、「ユーザーが驚くような機能を実現する」考え方を持つ。「新しい技術がどのようなものなので、どのような活用方法があるのか」「何が課題・リスクで、将来どのように解決される方向なのか」については誰よりも理解するよう心がける必要がある。


(*1) クレイトン・M・クリステンセンのイノベーション理論によると、破壊的イノベーションとは「新しい種類の商品・サービスの導入によりまったく新しい市場を創造するものである」と定義しており、導入当初は従来の商品・サービスにある余分なものを削ぎ落として新規顧客を狙う傾向が強いことから、主要顧客が価値を置いている機能・性能の尺度では「劣っている」と判断される可能性もある