デジタルを使ったリスクマネジメントの考え方オペレーションリスク予測での機械学習の活かし方のコツ

 人工知能(AI)の一つである機械学習に対する認識不足により、機械学習を活用しきれず、逆に振り回されるケースが多くの現場で発生している。機械学習でのアルゴリズムの構築が目的化してしまい、現場での活用にまで十分な検討がなされていないことが目立ち始めている。

 求められる予測自体の「精度」、打ち手への関連性を示す「説明可能性」、現場での実行性のある「運用」の3つのポイントを踏まえて事前に検討できていれば、機械学習の活用も恐れる必要はない。3つのポイントを考えるためには、機械学習のアウトプットを事業に活用した場合の具体的シーンをイメージ出来ていないと難しい。具体的なイメージがあればこそ、機械学習に求められる精度、説明可能性のレベルを逆算することが可能になる。そして、そのレベルを実現出来るのか、出来ないのかに加えて、実現するための現場への負荷もまた見えてくる。

 リスクマネジメントに機械学習を活用するためには、機械学習の中身を理解しているデータサイエンティストだけでは足りない。機械学習のアウトプットを、リスクマネジメントの意思決定に活かせる仕組みに落とし込める「ビジネストランスレーター」という役割も求められる。
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2017.11.20

トレンド・背景

 人口知能(AI)では、機械学習と、その一部であるディープラーニングが中心となり、第3次のブームを迎えている。AIが人間の能力に近くなり、「機械による人間の代替」が広く議論されていることもあって、「AIは自力で問題を解決してくれる」という幻想も広がった。

 特に、アルファ碁で有名になったディープラーニングは、教師となる訓練データを事前に読み込ませる必要がなく、自律的なAIとして注目が集まった。ただ、教師なしにデータの特徴量を抽出できるディープラーニングは、コンセプトが先行している。ビジネスの現場で実際に使うことを考えると、教師の代わりとなる膨大な学習データを集めるのに時間がかかる上、ブラックボックスのアルゴリズムを修正・運用していく難易度が高すぎる。

 ディープラーニングまでいかなくても、教師ありの機械学習でも、実務として使いこなせている企業は多くない。機械学習を使いこなしている企業は、他の企業と何が違うのだろうか。

何をすればよいのか

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成功の鍵

 我々が相談を受ける多くの企業では、明確になった課題を解決するために機械学習を使うのではなく、機械学習を使える課題は何かという発想でプロジェクトを始める。課題からではなく、課題を解決するツールから議論が始まるため、達成したゴールが定まらずに迷走してしまう。何を解決するかが明確になっていない状況から脱して、まずは課題を設定することから始める必要がある。

 一方で、課題が明確になっていても、機械学習のアウトプットを用いて課題を解決するシーンにまで結び付けられないこともある。課題を解決するために何が必要かを見極めるためには、事業・業務の勘どころを知っていることが必須となる。マネジメントが意思決定をするためには、「何が説明として求められているのか」「業務として何を変えればインパクトを出すことができるのか」を分かっている必要がある。

 例えば、予測の精度が高いという理由のみでディープラーニングを選んでしまうと、後で立ち往生しかねない。ディープラーニングは、自律的にデータの特徴量を抽出するため、後から人間が予測ロジックをトレースすることができない。そのため、マネジメントから「なぜ、リスクが高まっているのだ」と問われると、「なぜ」に対する説明をできない。さらに、予測のインプットデータは、とりあえず考えられるものを全て投入するので、データ加工に手間がかかる。現場での持続的な運用への検討が足りず、その結果、「十分に活用できないうえに、手間ばかりかかるシステム」になってしまう。

 機械学習の活用にあたり、やるべきことは3つある。まず「経営判断の活用シーンからの逆算」、次に「仮説思考でのリスクに関係する因子の抽出」、最後に「予測精度・説明可能性・運用コストを満たすアルゴリズムの構築」だ。

 経営判断に当たって、求める予測の精度と説明可能性のレベル感を関係者間で最初に共有できれば、プロジェクトが迷走することはない。ただ、通常では、ビジネス側の人間は機械学習への理解度が低いため、プロジェクトの開始直後には実現可能なアウトプットを想定できない。分からないから見切り発車するのではなく、意思決定にあたり経営層が確認してきそうなポイントを先回りして、回答するために必要なデータとその粒度を想定しておく。それをデータサイエンティストに伝えるだけでも大きく結果は異なる。

 リスク因子の抽出では、データサイエンティストは、ビジネスモデルやオペレーションへの知識・勘どころが不足しているため、網羅的に検討をしてしまいがちになる。リスク予測のような、多種多様な検証対象がある場合には、膨大なデータ種類・量を分析していくことが求められる。プロジェクトを常識的な期間内に終えるためには、関係なさそうなデータを事前に検討対象から外して行く思い切りが重要だ。そのために、現時点での理解から、影響のありそうな因子を想定していく仮説思考が問われることになる。

 さらに、データサイエンティストは職人気質が多く、必要以上に精度を高めることに注力してしまうことも多い。アルゴリズムの構築では、予測の精度だけでなく、予測ロジックの説明可能性、運用コストのバランスを考える必要がある。

 3つを実現するためには、機械学習の知見が不足しがちなビジネス側と、ビジネスに疎いデータサイエンティストの両者の架け橋となる「ビジネストランスレーター」の役割が必要となる。

 「ビジネストランスレーター」は、該当事業のビジネスモデルとオペレーションの知識を持つ。さらに、アルゴリズムを構築できなくとも、機械学習におけるインプット、アウトプットの関係を整理できている必要がある。その2つの知見を用いて、機械学習を使うために必要な因子仮説と、アウトプットの具体的な活用シーンまで落とし込むのが「ビジネストランスレーター」の最大の役割だ。