デジタルビジネスでの壮大な勘違いカスタマーエクスペリエンス(CX)を理解するためには

 顧客が、デジタルやリアルの接点を通じて、サービスを使用し、サービス提供者との間で双方向でコミュニケーションするプロセス。そこでの経験、まさにカスタマーエクスペリエンス(CX)での価値が重視されてきている。

 CXの中で感じている価値を見極めるのは非常に難しい。顧客自身も日常の一コマの中で、無意識のうちに価値を感じて、行動している部分が大きい。そのため、顧客に問いかけても言葉として出てくることはあまり期待できない。顧客自身でも分からないことを、他人である我々が外から探る必要がある。

 他人である我々がそれを探るために、やれることは限られている。顧客の行動を観察する、見えない部分の顧客の心の動きを妄想する、企業から提供する価値に対する顧客の反応を検証する、という3つしかできない。

 デジタルビジネスでは、顧客に提供する価値を一発で当てることを諦めた方がよい。だれも回答を持っていない中で、当たるまでのプロセスを速やかに実行することが求められている。
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2017.11.20

トレンド・背景

 顧客が、モノを所有する形から、コトを消費する形に移っていると言われてしばらく経つ。日本企業も、ソリューション提案型、課題解決型と色々な標語を生み出しながら、「モノ売り」から「コト売り」へとシフトしている。

 デジタルの世界では、顧客が製品・サービスの使い方を決める。企業は、「コト」売りにあたって、顧客のデジタルの使い方に自社の製品・サービスを合わせていかないといけない。顧客は、いくつものデジタルデバイスを使い分け、テレビを見ながら、スマートフォンをいじったりバーチャルとリアルを行ったり来たりする。こうした気ままな顧客の動きに合わせられなければ、競合の製品・サービスにすぐに乗り換えられてしまう。

 そのために、企業は顧客の行動を把握して、それに速やかに対応しなければならない。また、顧客の行動を単発の行動ではなく、一連の行動連鎖である、カスタマージャーニーとして捉えていく必要がある。カスタマージャーニーの中で、顧客が求めている「コト」を捉えて、価値を提案していかなくてはならない。

何をすればよいのか

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成功の鍵

 顧客の行動を追って行くと、そこに顧客自身も説明できない購買行動の決め手が存在する。行動のプロセスの中で、顧客が無意識に近い形で価値を感じ取り、それに従っている。経験価値という言葉で表現されるものの、その価値はわかりにくいものだ。

 顧客の行動を理解するためには、CXから発想することが必要だという認識が浸透するにつれて、CXを活用することの難しさも認識されてきている。もともと、顧客自身ですら説明しきれないものを相手にしており、いくら議論や調査をしても答えにはたどりつかない。議論の場では、参加する人それぞれが、自分が過去に経験した範囲の中で心地良かったことを話している。そのため、提供すべきCXの議論が拡散したままになり、収束しないことが多い。例えば、製品やサービスの開発優先順位を決める会議で、ある人は「CXを考えると、まずはこの機能が不可欠だ」というのに対して、他の人は「いやいや、こちらの機能の方がCXには重要だ」と、議論が平行線をたどる。結局、開発の責任者や声の大きい担当者が、議論を無理やり結論づけていく。

 言い換えると、CXに基づく議論ではなく、自分が顧客だったら欲しい経験価値を言い合っているだけだ。あくまで外部からCXを推測していることを念頭に置くべきだ。常に、顧客の反応をうかがいながら、想定しているCXを修正していくことが求められる。CXを修正していくに当たって、人によってとらえ方が異なるのでは困ってしまう。そのために、前提条件となる顧客像としてのペルソナと、ペルソナの行動プロセスをカスタマージャーニーとして描くことが必要になってくる。

 カスタマージャーニーに描かれたような、顧客の複雑な行動を把握する仕組みは、整ってきている。顧客の行動データを収集できる範囲と量は拡大し、そのデータを蓄積・統合することも低コストでできる。さらに、データ抽出・分析の機能が高速化し、顧客の行動変化のタイミングをリアルタイムに検知することを可能にした。顧客のデジタルでの行動変化を捉えるため、Cookieという足跡に頼るだけでなく、一つのIDで複数のWebサイトにログインできるシングル・サインオン(SSO)やフィンガープリントというテクノロジーも出てきた。調査モニターの全ての行動を捕捉するシングルソースパネルという形で、デジタルだけでなく、リアル行動を把握できる調査もある。

 さらに、CXそのものを議論するにあたり、共通言語として、「お得」「便利」「安心」「楽しい」という枠組みを使うことが多い。「お得」「便利」を基礎的なCXの要素として、さらに高次元の「安心」「楽しい」が存在する。

 「お得」「便利」「安心」「楽しい」を考えるに当たっては、ユーザーの立場によりCXが異なることを意識する必要がある。例えば、グルメサイトによくある口コミという機能を考えてみよう。同じ画面を見ていたとしても、投稿者と閲覧者の立場ではCXはまったく異なる。投稿者は、投稿することでポイントを付与してもらえる「お得」や、みんなに知ってもらう「楽しい」という価値を感じている。一方で、閲覧者は良いお店を容易に知ることができて「便利」、事前にお店の様子が分かって「安心」という価値を感じている。

 さらに、CXのステージを変える「驚き」という観点も存在する。どんなに練られたビジネスモデルでも時間の経過と共に、CXは古臭くなっていく。当然、「お得」「便利」「安心」「楽しい」の価値も減退していく。その中で、「驚き」を加えることで、「お得」「便利」「安心」「楽しい」を新たな次元へと誘導していくのだ。

 ここまで話してきたペルソナ、カスタマージャーニー、CXの共通言語を用いて、自社が提供してきたCXが、ビジネスモデルの「再構築」によって、どう変わるのかをしっかり考える必要がある。それを、ビジネスモデルとして具体的な製品・サービスに落とし込む。さらに、製品・サービスを使った顧客が想定したCXを体感できているかをしっかり見極めていくのだ。最後に、ユーザーのCXを想定した後は、施策により効果があるのか、実現性・持続性があるのかという観点で見極めていくことが必要である。