デジタルビジネスでの壮大な勘違い従来とは異なるデジタルビジネスの立ち上げ

 デジタル化によりビジネスの立ち上げ方にも大きな変化が起きている。従来のビジネスでも、デジタルビジネスでも、顧客が求めるものに対して、新たな価値を提供するという点は変わらない。ただ、新たな価値を創り出すにあたって、注目する価値と、それを実証するアプローチが異なる。

 従来のビジネスでは、顧客が製品やサービスを使って得られる「結果という価値」に注目している。一方、デジタルビジネスでは、顧客が製品・サービスを使っている「プロセスでの価値」に注目している。例えば宿泊というサービスの場合、ホテルでは、自宅にいるかのように「快適に一晩を過ごせたという結果」が大切であり、Airbnbのような民泊では、「いつもと違う特別な体験」が大切となる。

 新たな価値を実証する場合も、従来のビジネスでは、コンセプトを練りビジネスモデルを作り込んだ上で、失敗がないように実行する。一方で、デジタルビジネスでは、トライ&エラーを通じて、提案する価値やビジネスモデルを修正(ピボット)していく。

 顧客(Customer)が製品・サービスを経験(Experience)するというプロセスに注目して、現状では満たされていない「不」に対する解決策を提示していく。それをトライ&エラーの繰り返しを通じて実現していくのがデジタルビジネスだ。とはいえ、何の根拠もなく思いついたアイデアを検証しているわけではない。顧客の行動を観察した上で、「不」を解消するための方法を検討して、ひとつひとつ顧客に確かめているのだ。
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2017.11.20

トレンド・背景

 ビジネスを立ち上げるにあたり、販売チャネルや技術開発力が大きな優位性となった時代は終わり、デジタル化により展開できるビジネスの選択肢が大きく広がっている。App StoreやAWSといったデジタルプラットフォームを活用すれば、垂直的にビジネスを立ち上げることもできる。いままで参入が難しかった金融のような規制産業にも、フィンテックを活用したたくさんのスタートアップがディスラプトの機会を伺っている。

 多くの企業において、デジタルが脅威であると同時に好機であるという期待が高まるものの、大手企業でのデジタルビジネスでの成功事例は一部に留まる。商社のような新規事業の立ち上げを得意としてきた企業でも、デジタルビジネスの立ち上げには戸惑っているところが多い。逆に、活用できるリソースが少ないベンチャーの方が、デジタルビジネスでは元気がよさそうに見える。2016年度に国内でIPO した93社のうち、デジタルビジネスを生業とする企業が23社もあり、約3割を占める。

 もちろん、ベンチャーの成功例の後ろには、世の中では取り上げられていない大量の失敗例がある。ただ、サイバーエージェントやDeNAのように成功したベンチャーであっても、メガベンチャーという言葉があるほどベンチャーらしさを大切にしている。そこには、デジタルビジネスと相性の良いなにかがあるのだろう。

何をすればよいのか

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成功の鍵

 従来のビジネスでは、顧客インタビューを積み重ね、顧客のニーズを引きだし、それに合わせて提供できる価値を見出していた。ただ、CXでは顧客自身も気付いていない「不満」「不足」に切り込んでいかなくてはならない。実際にマーケティングのプロジェクトを行なっている中で、顧客にインタビューをしても、「不満」「不足」を引き出せないケースが大部分だ。

 一方で、デジタルビジネスでは、顧客がプロダクトを使うプロセスでのカスタマーエクスペリエンス(CX)から発想を出発する。CXを起点に、顧客の経験価値を高めるようなアイデアを構想し、そのアイデアを出来るだけ早く実証する。アイデアの起点となるCXは、顧客が既に気づいている不満・不足ではなく、まだ顧客も気づいていない「不満」「不足」だ。顧客も気づいていない「不」を見つけるためには、自らの目と耳で顧客の行動を観察して、気づきを得る必要がある。気づきを基にモックアップやベータ版プロダクトを作り、実際に顧客に体験してもらい、そのフィードバックを踏まえて躊躇なく元のアイデアを作り変える。

 ただ、その際に思いつきでアイデアを手当たり次第にトライしてみれば良いわけでもない。アイデアを実行してみて、そこからアイデアをピボットできるだけの材料を引き出さなくてはならない。そのためには、CXのどのシーンに着目して、どの「不」をどの機能やコンテンツで解消していくのかが明確になっている必要がある。そこまでして、初めて「不」に対する解決策が、本当に顧客に価値として認められているのかを検証できる。

 「失敗から学ぶ」という標語を至るところで聞くものの、次々に導入するコンテンツや機能によるユニークユーザー数の伸びやコンバージョンレートの向上という指標に一喜一憂してしまうことが多い。デジタルビジネスを立ち上げてみても、「やっぱり成果が出ないね」という評価だけで学びもなく撤退してしまう企業が多すぎる。

 単に事前の準備に時間をかけろと言っている訳ではない。スピード感を持って、検証をしていくことも重要だ。トライ&エラーを単発ではなく、サイクルとして回していくためには、「何に効果があり、何に効果がなかったか」という検証結果を蓄積していく必要がある。その中で、あらゆる側面から顧客の「不」を解消できるアイデアを抜け漏れなく検証していく。顧客の行動プロセス(カスタマージャーニー)に沿って、「不満」「不足」の解消をできる箇所を書き出してみることも一つの手段だ。

 単発のトライ&エラーではなく、意図のあるトライ&エラーのサイクルを、スピード感を持って回してくことが、デジタルビジネスの立ち上げで求められているのだ。